「なぁ、さんだる、って何だ?」
「サンダルですか?これですよ」
「みきさぁ、ってどれー?」
「その棚の上のです」
「これなんて読むんだぃ?」
「ニュースって読みます」

戦国時代の人間の彼等。
英語なんて本当は普及しているはずもなく、聞いたことのない横文字は現代人の私に尋ねてきます。
ある人が、それを見てイライラしていることにも気付かず、私は教えてあげる。

「これはなんと読むのでござろうか」

幸村君が、ケーキが掲載されているチラシを持ってくる。

「ああ、それはね」

いつもどおり私が答えてあげようとしたら

「Don’t teach」
「むぐっ」

誰かによって私の口は塞がれる。
英語をしゃべれるのは、彼しかいません。

「政宗殿!何をなされておるのだ!」

背後から私を抱きしめるように、口を大きな手で軽く覆われる。
幸村君の声に他の人たちも集まり、不思議そうに私たちを見ていた。
すると政宗さんは彼らを見渡し、1つ、溜息をついた。

「テメェ等…もうこの世界に来てどんくらい経ったと思ってやがる」
「どーしたのいきなり」
「いいから答えろ」

いたって真剣な眼差しの政宗さんに、彼らはお互い顔を見合わせ、慶次さんが代表して口を開いた。

「大体半年だろ?」
「That’s right」

ビッと長い指を慶次さんに向け、政宗さんは別の質問をした。

「お前ら、今のオレの異国語の意味、わかるか?」

その質問に、ほぼ全員が目を丸くし、きょとんとした。

「知るかんなもん」
「それだ!」

ビシィッと指差す方向を元親さんに変える。
とうの元親さんは、政宗さんの急な怒ったような声に肩を少し上げた。

「テメェ等、いい加減異国語覚えやがれ。青空もいい加減疲れるだろーが」

政宗さんはまた溜息をつき、私を抱き寄せる。

「見てりゃぁテメェ等、前にも聞いたようなwordを再度聞いたり、同じwordを別の奴が聞いたり…めんどくせぇだろ」
「わぁど?」
「単語とか、言葉ってい「Shut up.テメェは黙ってろ」むぐぐ…」

ま、また口塞がれちゃった。

「確かにそれは迷惑でござるな」
「そうだなぁ。今まで普通に聞いてたけど、改めて考えると…青空、ごめんな」
「ぷはっ、いえ、わからないのなら教えないといけないでしょう?」
「そう、わかんねぇなら教えるのみ」

不敵に政宗さんの口角が上がる。
そしてなぜか、さらに私を抱き寄せた。

「これよりテメェ等に、オレと青空でEnglish講座を開いてやる!」
「い、いんぐ…?」
「英語って「教えるな」むぐぅ」

これくらい教えてあげたって…。

「ま、確かに俺らもいい加減覚えないといけないのかもな」
「知らぬことを知ることも、己を高める修行。某、政宗殿より、いんぐりっしゅぅ、とやらを教えていただきたくございまする!」
(テメェが1番不安なんだよ…)
「ぷはぁ。じゃぁ、決まりですね。みんなでお勉強会です!」

おー!と私が腕を上げれば、幾名かも楽しそうに腕をあげてくれた。

「それはそうと政宗様」
「An?」
「そろそろ、離されてはいかがですか?」
「No」
「あ、さすがに今のは俺でもわかるぜ!政宗、拒否すんな!」



「それじゃぁ、まずは日常でよく使うもんをあげたぜ」

印刷された紙に、日常でよく見たり使う単語が並んでいる。
それを1枚ずつ配っていると、元親さんが手を上げた。

「…独眼竜、なんでテメェは眼鏡かけてやがんだ?」
「その方が雰囲気出るだろ?」

伊達だけに伊達眼鏡ですね、わかります。
黒ブチ眼鏡の縁をクイッと上げ、政宗さんはプリントを見た。

「オレとhoneyの厳選のすえ、これらは覚えやがれ」
「よくもまぁ準備のいいこって」
「Shut up」
「えっと、全部できた人から、この試験を抜けられるってことにします」

ルールは、すべての単語を読めるか、1人ずつテストします。
全部ちゃんと読めたら、無事卒業!

「なぁなぁ、ただやるだけじゃつまんないからさ」

胡坐をかいた慶次さんが、何か思いついたらしいです…何故か嫌な予感。

「一番早く抜けられた奴は…」

ゆっくりと、慶次さんの人差し指が……私を指した。

「今日1日アンタを独占できる権利を持つ。ってのはどうだぃ?」

にやりと楽しそうに、慶次さんは笑った。

「よっしゃぁ!一番は俺がいただくぜ」
「俺様も負けてらんないなぁ」
「あっ、あの、ちょくちょく私を賞品みたいに扱うの止めてくれません?!」

私の訴えは、黙々と紙を読んでいる彼等に届くことはなかった。

「なぁ、これはなんて意味?」

私を呼び止めた慶次さんが指差す単語は、【LOVE】
私は、ちょっと笑ってしまった。

「それは、慶次さんがいつも言っていることですよ」
「俺がいつも言っていること?…もしかして、俺が青空に抱いている思い?」

え?と尋ねる前に、ずいっと、目の前に慶次さんの顔が。

「恋、もしくは、愛?」

正解、だけども、直前に言われたことと、慶次さんの顔が近すぎて何も言えない。
ジッと、私の目を見る真剣な瞳。

「風来坊邪魔」
「いでっ」

すると、佐助さんに蹴られた慶次さんは、頭を押さえながら渋々と私の前から退いた。

「そんじゃ、俺がてす「佐助!抜け駆けは許さぬぞ!」抜け駆けじゃないって…」

頭を抱えた佐助さんは、後ろで叫ぶ必死な幸村君に順番を譲ってあげた。さすが佐助さん。

「そ、それでは!」
「頑張ってね」

紙を目の前に見えるように持ち、幸村君は緊張した様子で読み上げる。
その様子を、全員が見ていた。

「あ…あっぷ!だうん!ふあ、ふぁいと!…でぃぶいでぇ!」

一所懸命読み上げる幸村君に…。
見ていた6人は、何故か哀れみのような目で彼を見ていた。

「れんぢ!るぅる!すとっぷ!きっ「Stop.もういい」

ぽん、と、政宗さんが俯きながら幸村君の肩を叩いた。

「なっ、なぜでござる!?某はまだ…」
「うん、俺様でもわかる。旦那、その読み方どうにかしよっか」

佐助さんが、遠い目をして反対の肩を叩く。

「…ま、まぁ!幸村君だって頑張って読んでましたし、ちょっとぐらい、その…え、英語っぽく聞こえなくても…」
「これはひでぇだろ」
「しかも、振り仮名がふってあるじゃねぇか」
「これは慶次殿が書いてくださったのだ」
「それはrule違反だ。慶次、テメェもな」
「ちぇー」

渋々と真新しい用紙を貰い、幸村君はまた練習を始めた。

「るぅる!にぅす!」
「もうちょっとvolume落とせ。うるせぇ」

その後も元親さんや佐助さん、慶次さんに再三幸村君も挑戦するけど、一向に勝負がつかない…。
こんな状況に、政宗さんは溜息を深くついた。

「Oh my god…。テメェら学習能力ねぇな」

哀れみを込めて罵る政宗さんに、できなくてイライラし始めた元親さんが声を荒げた。

「るせぇ!こちとら一所懸命やってんだよ!」
「そうですよ政宗さん。一生懸命やってるんですから、待ってあげなきゃ」
「待つだけじゃ成長はしねぇ。Time limitでも作ってやらねぇとな」
「えーっと…時間制限?」

おお、佐助さんが理解できました。

「残り10分で誰もできねぇと、青空の独占権利はオレが貰うぜ」
「ふぁっ」

そんな過酷な条件と、何故そうなるのか、政宗さんが優勝商品を貰うということが発表され
私は彼に抱っこされ、膝の上に乗せられた。

「なっ…!?」
「そりゃぁズリィって!」
「もっと時間延ばせゴラァ!」
「Shut up. Time limit短して5分だ」

ギャーギャーと抗議の声があがるも、政宗さんは動じない。むしろ強気。

「畜生が、ぜってー覚えてやる…!」
「俺様も負けてらんない」

紙に穴が開きそうなほど、凄い形相で紙と睨めっこする。

「み、皆さん頑張ってください!」
「ま、精々やってみるこった」

政宗さん、幸村君たちができないと思ってこんな強気なのですね…。
彼等が必死なその間も、政宗さんは私に擦り寄る。
ええ、逃げ出そうにも腰に回された腕の力が異様に強いのです。

「の、残り1分です…」

しかし、誰1人として名乗り出てくる人は無し。
もはや、目が遠くを見ています。
反比例して、政宗さんのご機嫌はよくなっていくばかり。
こ、これじゃぁ私、今日1日政宗さんに好き放題されちゃう?!
いつだったか、暫く前に政宗さんに1日独占された記憶を思い出して、私は小さく悲鳴をあげた。
あの日の疲労感と羞恥のWアタックはもう嫌です!誰か…!
残り1分をきったそのとき、私の願いが誰かに届いた。

「…政宗様、この小十郎に受けさせていただきたく存じ上げます」

私達の前に正座したのは、高確率で救世主となる
今私に頬擦りをする政宗さんの1番の忠臣

「小十郎さん…!」
「…OK.やってみろ」

政宗さんが許可すると、では、と紙を取り出し読み上げる。
小十郎さんの口から出る英語ははっきりとしていて、しかも、発音もなかなかいい。

「さ、さすが片倉殿…」
「伊達に右目やってるだけあるってもんだね」
「…フィニッシュ」

期待通り、小十郎さんは最後までご丁寧に読み上げてくれた。
判定はもちろん

「…合格」

渋るような声で告げると、小十郎さんが頭を下げた。
後ろでは、他の人たちがなにやら盛り上がってます。

「よっしゃぁ!これで独眼竜に青空が独占されなくて済むぜ!」
「片倉殿なら安心でござるな」
「………」
(風魔も考えることは同じ、か)
「政宗様、まずは解放なさってください」
「チッ…」

政宗さんは不機嫌そうに私の背を軽く押す。
すると、体は小十郎さんへと倒れこんだ。

「きゃっ…」
「っと…なぁ」

その際、小十郎さんが耳元であることをお願いしてきた。

「政宗様は今回俺らのためにお前と企画してくださった。
 だから、政宗様に…」

流石忠臣。いつも主君を立ててくださる。
耳打ちした内容は、少し恥ずかしいけれど,小さく頷くと、小十郎さんは私を解放した。

「政宗さん」
「あ?」

―チュッ―

「!?」
「お疲れ様でした。頑張ったで賞、です」

ほっぺに、ちゅう。

「ちょっ、なんで何もしてない竜の旦那がされてんのさ。ねぇ、俺様にもー」
「そうそう!俺にも頑張ったで賞くれよ!」

ずいずいと寄る彼等に、一瞬迷ったけど、私は彼等の頬にもキスをした。
もちろん、元親さんや小太郎君、佐助さんに押さえられた幸村君にも
そして、優勝者には

「ありがとよ」
「いえ、でも、こんなでほんとにい…」

―チュッ―

小さなリップ音。
見開いた目の前には、瞳を閉じた小十郎さんの顔が。

「優勝者は特別、だろ?」

大人っぽく微笑んでいる小十郎さんが、ついさっき私の唇にキスをした。

「なぁ?!かか、片倉殿!?」
「…右目の旦那ぁ?そりゃぁちょーっと…」
「いや、だいぶやりすぎだぜ?」
「小十郎…オレと勝負しろ…!」

どす黒いオーラを放つ6人の中で、一際混濁したものを放つのは
私を抱き寄せながら余裕で微笑む小十郎さんの主君、政宗さん。
どん、と、テーブルに肘をついた。

「今度はこっちで勝負だ。You see?」
「ふっ、臨むところです」

ようは、腕相撲。

「俺も混ぜろよ!」
「そっ、某も負けぬ!」

こ、これは…予期せぬ第2ラウンド開始ですか?





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