「たなばた、とは、どのような行事でござるか?」
ちょこんと私の前に膝をつく幸村君が、いたって真面目な顔でそう尋ねてきた。
「なんだよアンタ、七夕も知らないのかぃ!?」
「も、申し訳ござらぬ…」
「謝るほどじゃねぇけどよ…つか、テメェに教養ってのはねぇのか?」
「まぁまぁ、知らないのなら仕方ありませんて」
「悪いけど、うちの旦那は戦馬鹿だからね」
責められる幸村君を、私と佐助さんで庇ってあげる。
佐助さんのはフォローになっているか微妙だけれども。
「生憎、旦那は昔から教養ほったらかしで武芸に励んでたから」
「うむ!お館様のお役に立つため、幼き日より日々鍛錬して参った所存!」
「正直俺様も旦那ほどじゃないけど、そういう知識は教えられた覚えはないってね」
「………」
「なるほどな」
「Honeyが教えるまでもねぇぜ。オレが教えてやる」
どこか納得したような小十郎さんと、実際は勉強家、頭のよい政宗さんの伊達主従が、真田主従の前に出る。
「えーっ、こういう話は男に語られるよりも可愛い女の子に語られたほうが雰囲気出るって!」
「つーことだ。話してやれ」
慶次さんと元親さんの手が私の肩に置かれる…え、私ですか?
「じゃ、じゃぁお話しますね」
政宗さんは少々不服そうだったけれども、宥めて私が教えてあげる。
「昔々ね、機織りの織姫様と牛飼いの彦星様っていう夫婦がいたの」
「なぁっ!」
「旦那、黙って聞く!」
「う、うむ…」
「2人はとっても仲睦まじくてね、それがお互いの仕事に影響しちゃって」
「役目を忘れ女子と戯れるなど…破廉恥極まりない!」
「旦那、ちょっと本気で黙ってほしいんだけど」
「それで怒った神様が、2人を引き離すために天の川の水量と幅を増大させたの。
2人は川の両端に、離れ離れになっちゃったの」
「当然の結果でござる」
「駄目だ、旦那には空気を読むっていう頭がない…」
「じゃぁ、こいつと離れ離れになったらどうだ?」
元親さんが子供に答えを聞くように、幸村君に尋ねた。
「…悲しい、でござるな」
真顔で下を向く幸村君に、少し顔が熱くなった。
「幸村君…あっ、そそ、それでね、今度は逆に2人とも悲しすぎて毎日落ち込んでいて、仕事をしなくなったの。
で、神様もさすがに2人が気の毒に思えて、年に1日だけ、会うことを許可したんだ」
「それが、今日ってこと?」
「That’s right」
パチンと指を鳴らし、政宗さんが佐助さんを指差す。
「つまり、今日はそのcoupleが川を越えて触れ合う日ってことだ」
触れ合う日…うーん、合ってるのかなぁ?
「して、その天の川というのはどこにあるのでござるか?」
「そっからかよ…しゃぁねぇ、ちょっと来い」
元親さんが幸村君を手招きし、ベランダに出る。
航海には星を見るって言いますし、元親さんは星空に詳しいのは納得ですね。
その後ろを私たちがついていくと、ベランダはあっという間に満員に。
ちょうどよく、今夜は晴れていた。
闇に煌く星の集団、そして、よりいっそう輝きを放つ2人の星。
「いいか、あの星の集団が天の川だ」
「なんと!天の川とは空に浮かぶ川でござったか!」
幸村君は心底驚いた表情。本当に知らなかったんだね…。
「で、あの星が彦星と織姫だ」
「ぬぅ、見分けがつきませぬ」
確かに、見つけるのはちょっと難しいよね。
そんな幸村君に、元親さんが幸村君の目線に合わせて、空に指を指す。
「Honey,実はオレもまだ見つけられねぇ。教えてくんねぇか?」
「あ、はい。いいですよ」
意外だなぁ。政宗さんならこういうの一瞬で見つけられそうなのに。
私は元親さんと同じく、政宗さんの目線に合わせて腕を伸ばす。
ぴったりとくっつき、なるべく目線と指の先が同じになるように…。
「政宗様、そのように嘘をつき密着を図るのはおやめください」
小十郎さんが少し強めの力で、私を政宗さんから引き剥がした。
「って、政宗さん、嘘って…?」
「…チッ」
舌打ち!?図星なのですか?!
「お前もだ。簡単に男に体を寄せるな」
「で、でも今は、説明するために…」
「………」
「小太郎君!政宗さんにクナイ向けちゃ駄目だよ!?」
「はいはい、恋人が出会う夜にそんな物騒なモン取り出さない!」
慶次さんが小太郎君を宥め、しぶしぶ武器をしまう。
「これだけ綺麗に星が出ていると、織姫様と彦星様は会えますね」
「だな!しっかし、神様ってのは勝手だな!愛し合う2人を引き裂いたりしてさ!」
「それに、俺等を異世界ってのに飛ばしたりな」
…確かに、神様は勝手だなぁ。
「年に1度しか会えないなんて、寂しすぎますよね」
「そ、某なら!川を泳ぎきってみせましょうぞ!」
七夕を知ったばかりの幸村君が、私の両手を握り宣言する。
「ふふっ、幸村君らしいね」
「俺様なら神様を脅迫するけどねー」
…佐助さんらしい。のかな?
「でもさ、神様は出会いも与えてくれたよな!」
「出会い?」
首を傾げると、全員が顔を見合わせ、そして、私を見た。
「お前と、会えた」
優しい目が、私の見開いた目を見つめる。
彼等の微笑が、歪む。
「そう、でしたね…!」
出会いと別れは切っても切り離せないもの
出会いがあるから、別れがある
「俺らはお前を1人にしねぇよ」
「神様ってのが離れさせるために来たら、ぶった斬ってやらぁ」
天の2人も、出会ってしまったから離された
出会わなければ、別れもないのに
「もう誰も、青空を1人にはできないからさ」
「だからテメェも、俺等を信じていろよ」
こんなにも情が湧くから、別れがとても悲しいのに
「…はい!」
誰モ知ラナイ
「よっし!天の2人に拝んどこ」
「何を拝むのでござるか?」
「俺にも幸せを分けてくださいってさ!」
「俺も拝んどこ」
「私も拝みます!」
「なら俺も…」
「…何この光景」
この瞬間(トキ)がどれだけ幸せか
「……(知らなくていい)」
別れが、この先の運命がどれだけ残酷か
誰モ知ラナイ