「あっ、来た来た。おーい!青空ー!」
学校が終わった夕方、校門より外側で、手を振る慶次さんと、ポケットに手を入れたまま門に寄りかかる政宗さんがいた。
迎えに来てくれたんだとわかると、急いで彼らの元へ。
「迎えに来たぜ」
慶次さんは、にかっと無邪気な子供のような笑顔で私を迎えてくれた。
「早く帰らねぇと、小十郎の小言が始まるぜ」
緩い弧を描いた口が、小さな溜息を吐き出す。
「行くぞ」
ポケットから出した左手は、すかさず私の右手を掴みとる。
「あっ、政宗だけずりぃ!俺も!」
反対の手を、慶次さんが優しく握ってくれた。
「止めろ。3人が手を繋ぐなんざ気色悪ぃだろ」
肩眉を下げながら、私を間に挟んで慶次さんに投げつける不満。
「なら、政宗が離しなよ」
それをさらに投げ返す慶次さんの口調は変わらないけれど、どこか重いもの気が。
お互い顔を見合わせる2人。間、つまり私の頭上に、2人のぶつかった視線が集まっているような…。
どうしよう…このままじゃ、お家に着く前に一波乱ありそうな。
1人頭を悩ませる私の目の前に、ひらり、淡いピンクの欠片が舞い落ちる。
「あ、桜…」
螺旋を描き地に落ちていくそれが、調度私達の視界を通過する。
2人の言い合いも、ぴたりと止まる。
「Oh…」
「夕日に散り桜…こりゃぁ、粋、だねぇ」
思わず口にしてしまうほど、明媚に咲き誇り、儚く散り始めている。
夕日がシルエットをかたどり、花弁をまるで溶かすように照らす。
「綺麗ですね…」
綺麗、なのに…。
なんで、こんなに切ない気持ちになっているのだろう?
自分の中のもやもやの正体を探ろうとすると、ふと、左手に力が込められる。
「…桜ってさ、すっげぇ綺麗だけど、悲しいよな」
まるで私の気持ちを代弁したかのように、慶次さんがぽつりと呟いた。
「なんだか、桜と一緒に、自分の何かが終わっちゃうような気がしてさ」
「それがいいんじゃねぇのか?」
政宗さんが口を挟むと、私と慶次さんの視線は政宗さんの右目を見つめた。
「それで改めて己の為すべき事、大切なモンに気がついたりするもんだ」
風が吹き、政宗さんの右目は一度瞬きをしてからまた、桜の木を、散る花を見つめた。
かと思うと、今度は顔を私に向けた。
真正面から見るその瞳は玲瓏で、つい見入ってしまう。
そんな私を、握られた右手が戻す。
「んな心配そうな目ぇすんな。俺はお前を置いていかねぇ」
いつもみたいに勝気な笑みを浮かべ、私の頬に手を添える。
…でもやっぱり、政宗さんも、どこか寂しそうな気がした。
「俺だって…青空を、置いていくような真似はしない」
背後から抱き寄せられると、慶次さんが私の顔の横で口を開いた。
「俺はもう、惚れた女と離れ離れになるのはごめんだ」
伏せた目に映るのは、桜の惨劇。
「青空を失いたくない…惚れた女は、死んでも護る!」
いっそう強い風が吹き渡り、花びらをさらい、私達を撫でる。
その間の沈黙の後、私は、顔を上げた。
「ありがとうございます…進めばきっと、道が見えてきますよね…?」
私の問いかけに、2人は顔を見合わせて、揃って私に目をやる。
「「ああ!」」
進まなければ、道は見えてこない。
「んーっん、よし。それじゃ、湿っぽい話はお終い!」
「結局遅れちまうな…」
例えそれが険しかろうと穏やかだろうと、進まなければわからない。
「あっ、怪我した猫を手当てしてたって言うのはどうだぃ?」
「小十郎はそんなんでひっかかる馬鹿じゃねぇよ」
怖くても、逃げたくても、進むときっと終わりがある。
「じゃぁ、帰りましょうか」
「ああ」
「俺腹減ってきた〜」
繋がっている3つの影が、前へと歩みだす。
今この瞬間は
爛漫と咲き誇る満開か
その時を待つ蕾か
終わりには、どうなっているのだろうか。