今宵は満月。十五夜です。
ベランダからでも見えるそのお顔に、心が穏やかになる一方で、何故かざわめく。
満月には、そんな効果があるらしいですよね。
さて、夜も更けたというのに私はまだベランダにいます。
というのも…

「Honey,テメェも一杯くれぇ飲んだらどうだ?」
「いえ、私未成年なので…」
「んなの関係あるかよ!」
「ありますよ!それに私お酒弱いみたいですし…」

このように政宗さんと元親さんがお月見会(という名のお酒を飲みたいだけ)から私を解放してくれないのです。
ちなみにこのお二方、結構酔ってらっしゃいます。お酒臭いよ〜。

「そういやぁ、前はオレが飲ませてやったよなぁ…?」

がっしりと私が逃げないように、肩を回されています。
そんなことを吐息混じりに耳元で囁かれてしまう。
反射的にそのときの状況を思い出しちゃいましたよ…。
勝手に思い出して1人赤面したとき、政宗さんの口元が上がったのに気がつかなかった。
彼は再び私の肩を引き寄せ、ギリギリの場所で私の瞳を捉えた。

「なんなら、また俺が飲ませてやってもいいんだぜ?」

そう言って、顔の横でお猪口を揺らす。
触れてもいないのに、唇が熱くなってしまった。

「オイコラ、それ以上酒臭ぇ体で青空に近づくんじゃねぇ」

力ずくで私の体は後ろへ引っ張られた。
政宗さんから離れた代わりに、今度は元親さんの膝の上へ。

「テメェも酒臭ぇだろぅが!勝手に青空奪うんじゃねぇよ」
「テメェのでもねぇだろうが」
「どちらのでもありません!」

間に挟まれた私はさぁピンチ。

「今回は俺が飲ませるぜ」
「あのっ、だから未成年の飲酒は禁止でして…」

グイグイと押し寄せてくる元親さんの目の前に、ストップと手を出す。
すると彼は小さく舌打ちをした。いや、舌打ちされましても…。

「…そういやぁ知ってっか?月にはよぉ、兎が見えるらしいぜ」

お猪口の中に注がれたお酒を軽く回しながら、元親さんは呟いた。

「rabbit?」
「私は知ってますよ。この世界では結構有名です」

ほら、と私は政宗さんの視線を誘導するように月を指差す。

「An?どこにいんだよ」
「えっと、あの影になっているところが…あ」

説明に夢中になっていて気がつかなかったけど、政宗さんの頬がすぐ傍にあった。

「どうした?」
「あっ、いいえ、なんでも…」

とは言ったけれども、流石にわかると意識しちゃう。
綺麗な目鼻立ち、月に照らされればそれがさらに際立って見える。

「青空、俺にも説明しやがれ」

ちょっぴり不機嫌そうな口調で、元親さんは私のほっぺをつついた。

「むにゅっ…も、元親さんは知っているんじゃ…」
「俺も南蛮のおっさんから聞いたことがあるだけだ。どうも俺には見えねぇんだよ」

そうでしたか、と、私は再び元親さんにも説明をしてあげた。

「ほら、あれの上のほうにあるのが耳で…」
「おっ!なんとなくわかったぜ。下のほうにあるのが二歩足だろ?」
「Shit.オレにはまだ見えねぇぜ…」

なるほどな、と、元親さんは満足そうに答えた。
よかったですね。と彼を見上げれば
月光が風に揺れる銀髪に反射し、眩しい。
月を見つめるその子供のようなコバルトブルーの瞳も、いっそう綺麗だと思う。

(Full moonのせいか?Honeyが普段より大人らしく見えるぜ…。
 いや、もともとそうだったのか?
 …どっちにしろ、今はGirlじゃねぇな…女だ)
(畜生…満月のせいか?コイツがやけに女に見えやがる…。
 コイツよく見りゃぁ本当…綺麗なんだな
 内も外も、全部この月のように……)

やっぱり、お月様の力は凄い。
人をいつもと違うように見せかけるんだもん。
人を、美しく見せるんだから。
そして、人の心も揺り動かす。
そう、だから、この気持ち…胸の高鳴りは、お月様のせい…だと思います。





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