「ふんふ〜ん」

ある晴れた昼下がり、私は鼻歌交じりに、ベランダで洗濯物を干していた。
彼等が来てから7倍に増えた洗濯物。それを1つ1つハンガーにかけていく。

「ふぅ、終了!」

腰に手をあて、ささやかな終了のポーズ。
籠を持って、室内に戻ろうとしたときだった。

「はわわ〜!!よ、避けてくださぁぁあああい!!!」

突然、後ろから女の子の声が!
振り返るとそこには女の子が、飛んで…って、こっちに来てる!?

「あっ、う、受け止めなきゃ…!」

じゃないと、壁にぶつかっちゃう…!
女の子がこっちに…あれ?意外と速…

―ゴンッッ―

「んきゅっ!」
「ふにゃぁ!」

女の子の勢いが強すぎて、私は彼女を受け止めたまま、後ろに吹き飛ばされる!

―ボスッ―

「…!」
「ぅぁ…あ、こ、小太郎、君…?」

吹き飛んだ私を、小太郎君が受け止めた。

「あ、ありがとう…」
「おい、なんの音だ!?」
「青空!」

やっぱり突撃した際に大きな音がしたらしく、全員が部屋に集まる。

「うきゅ〜…」

胸の辺りで、小さく唸る声。突撃してきた女の子が、目を回していた。

「あ、あの!大丈夫ですか!?」
「青空ちゃん、その可愛い子誰?」
「さっき降ってきたんです!」
「「「はぁ?」」」

私の胸元に寄りかかる体をそっとゆすると、大きな瞳が薄く開いた。

「ん…あ、ボク…」
「あの、大丈夫ですか?」
「あ、はい…」
「えと、とりあえず、リビングに…」

彼女を抱えて、ひとまずリビングへと移動した。



「あの、先ほどは突撃してしまい、すいませんでした…」
「あ、いえ…」

深々と頭を下げる彼女と向かい合い、政宗さん達は私の後ろに待機。
彼女が顔をあげると同時に、水色の髪がサラリと揺れる。
緑の瞳が、真っ直ぐに私を見つめる。
す、凄く可愛い子です…そんな子が、空から降ってきて…。

「も、もしかして魔法少女…!?」
「あの〜…そういうものではないです。一応」

彼女は一息おくと、事情を説明してくれた。

「ボクの名前は神景夢月と申します。こことは違う、別の『現代』からやって参りました」
「…はぁ」
「…あの、驚かないんですか?」
「あ、いえ…」

逆に驚いた目で言われましても…。

「こっちには、時代を超えて…というか、次元を越えて来た方々もいますし…」
「!?あ、貴方達は…!」
「ふぇ?」

彼女、夢月ちゃんは、私の後ろで待機していた彼らを見て目を見開く。

「つい青空さんのことで忘れていましたが、貴方たちは…!」
「忘れてたって、結構酷いねぇ」
「そ、それよりも、どうして私の名前を…じゃなくて、あの、彼等と知り合いですか?」

もしかして、同じ世界から来た?
後ろの彼等に目を配ると、全員、私を見て首を横に振る。

「Hey,テメェ、誰だ」
「こんな可愛い子なら、俺は忘れないんだけどなぁ」
「すまぬが、某はそなたを知らぬ」
「あっ…す、すいません」

彼等の言葉に、夢月ちゃんは肩を落とした。

「ちょっと、知っている方々に似ていたので…つい…」

そういう夢月ちゃんの目は、悲しそうだった。

「えっと、話を本題に戻しますね。まず、青空さん、ボクは時空を超えてこの世界に来ました。
 というのも…」

ゴクリと、唾を飲み込む。

「青空さん…貴女の料理を、食べさせてください!」
「はい!…って、へ?」

後ろで全員がこけた音がしました。

「実はボク、まぁ…魔法にも似た力が使えます。それが最近、コントロールが効かなくて…。
 だ、だからさっき!空から降った挙句、突撃しちゃったんです…」
「な、なるほど」
「それで、いろいろ調べたんです。そしたら…異世界にいる、ある特殊な人物の作った料理に治す力があることが判明したのです」
「…で、その、つまり、異世界の、ある特殊な人物が…私、ということ?」

夢月ちゃんはコクンと頷く。
そ、そりゃぁ、彼等が異世界トリップしてきたことで、私は特殊な人物になったかもしれませんが…。

「でも、私にそんな力は…」
「…今は詳しくは言えませんが、とにかく、お願いします!」

ガバッと頭を下げられ、どうしたものかと戸惑ってしまう。
だって、急に異世界から、とか、私の料理に治す力がある、とか…。
でも、夢月ちゃんは嘘をついてない。


「…わかったよ。私、作ります!」
「っ!ありがとうございます!」

笑った顔が、とっっても可愛いかったです。
エプロンを締め、台所に向かう。
作る料理はお味噌汁とご飯と焼き鮭!The☆和食!日本の朝ごはん!
あ、ちなみに佐助さんと小十郎さんは、夢月ちゃんから駄目だと言われたので待機です。



「なぁなぁ、力ってさ、どんなの使えんの!?」
「え、えと…今は力の制御ができないので、こんなのしかできませんが…。
 ここに、膨らませた風船があります。この中の空気の形を変えて…はっ!」
「おお!風船が犬の形に!」
「しかも動くっつー…すげぇな」

―パンッ―

「あ…割れた…?」
「あぅ、すいません。これくらい力の制御が利かない状態なのです」
「本当に、青空にそれを治す力があるのか?」
「はい。とりあえず…」
「なぁなぁ、他にも見せてくれよ!」
「某にも!」
「あ、はい!…ふふっ。じゃぁ、次は…」


そうこうして、30分後。

「できたぁ!」
「お疲れさん」

ぽんと頭に小十郎さんの手が乗せられ、私は一息つく。
そして、出来上がったそれを、夢月ちゃんの前に出す。

「こ、こんなんでよかったかな…」
「はい!それでは…いただきます」

お行儀よく手を合わせ、まずは一口。

「あっ…美味しいです!」
「ふふっ、よかった」

パクパクと次々口へ運ぶ…その手が、ぴたりと止まった。

「…お母さんの味って、こんな感じなのでしょうか」
「…え?」
「いえ、なんでもありません!本当に、美味しいですよ!」

にっこりと、笑顔で次々と食べていく。
少しすると、お皿は綺麗に片付いていた。

「ふぅ…ごちそうさまでした。もうお腹いっぱいです」
「お粗末様でした」
「さて、と…」

夢月ちゃんは、パン!と、手を合わせ、壁につけた。
すると、そこが歪み始める!

「…せ、成功です!力の制御能力が戻りました!」
「っ、よ、よかったぁ…!」
「青空さん!本当にありがとうございましたぁぁ…!」

ひしっ、と、夢月ちゃんが抱きつく。
こっちも同じくらい嬉しくて、抱き返す。

「それでは…ボクはこの時空の歪みから帰ります…本当に、ありがとうございました」
「ううん、私なんかの料理が役に立ったみたいで…本当によかったよ」
「…そのうち、わかりますよ。貴女という存在が」

夢月ちゃんはまた、にっこりと笑った。

「それと、これはささやかなお礼です」

今度は、私達に向けて、合わせた手を開く。
すると、ふわりと爽やかな風とともに、温かい、優しい香りに包まれる。
凄く優しい…心地よい風。

「これは…」
「…貴女方に、これよりどんな運命が待ち受けようとも、多くの幸があらんこと…それでは、さようなら…」

彼女は、吸い込まれるように消えてしまった。壁にはもう何もない。ただの堅い壁。
でも、空気が…とても、温かい。

「また、会えるでしょうか?」

花びらを掴み、そう呟いた。


変幻自在



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