暗い暗い空にポツンと浮かぶ満月を眺める、2人の人影。
2人はそっと寄り添いあっていた。

「お月様、まん丸ですね」
「今日はFull moonだからな」

蒼の着流しに身を包んだ政宗は、青空が酌した酒を口に含む。

「お前もどうだ?青空」
「じゃぁ、一口だけ…」

今度は政宗が彼女に注ぐ。
お猪口の中に浮かぶ満月。青空はそれをほんの少しだけ口にした。
政宗はその光景をじっと見つめる。
揃いの蒼い着流しからのびる雪のように白く、細い腕。
漆黒の長い髪と襟足から覗く綺麗なうなじ。
確かに高鳴っている胸を、政宗はかすかに押さえた。
今、自分は欲情している。
満月のせいか、はたまた酒のせいか。
しかし、大事な青空をそんなに簡単に抱くわけにはいかない。
青空は酒には強くはないため、この一口だけでやめてしまった。
ほぅ、と息をつき、今度はまた政宗に酌す。
その頬は、ほんのり赤かった。

「Thank you」

くいっと一口で飲み干す。
それを見ていた青空はくすりと笑った。

「ふふっ…」
「…なんだよ」
「いえ、政宗さんがこんなに早くお酒に酔われているのって珍しいなと思いまして」

別に政宗はまだ酔ってはいなかった。
まだまだいけるくちだ。こんなに早く酔うなんてない。

「だってほら、ほっぺたとお耳が赤いんですもの」

優しい手つきで、赤いらしい政宗の頬に触れる。
そして政宗ははっとした。
自分が今、青空に対して頬を赤く染めていることに。

「…まぁな」

しかしそこは真実を言えない。

「ふぁ…」

青空が小さく欠伸をした。
酒が回ってきたのだろう、目がトロンとしていた。

「眠いのかぁ?ほらよ、ここ貸してやる」
「ん…」

ポンッと政宗は自身の太腿を軽く叩いた。
青空は軽く目を擦り、今にも寝てしまいそうな目をしながら、そこに頭を預けた。

「…温かいです」
「Of course」

微笑みながら、青空の頭を撫でてやる。
その仕草はまるで、膝に乗る愛猫を撫でるかのよう。
たまに、その漆黒の長い髪を指に巻きつけて遊んだ。
細く柔らかい髪質からか、巻きつけてもスルリと解けてしまう。
何度も、何度もそうして遊んでいるうちに、膝からは静かな寝息が聞こえてきた。

「すぅ…」

その可愛らしい寝顔に、微笑まずにはいられなかった。
起こさないよう静かに立ち上がり、青空を横抱きにする。
足で器用に自室の扉を開き、布団の上に彼女を寝かせた。
扉は開けたままだった。

「青空…」

愛する妻が寝ている姿を見つめる瞳は、寂しげだった。
それを紛らわすかのように、酒をまた口にする。
冷たい酒。青空に注いでもらわなければ、美味いなんて感じない。

「ん、ぅ…」

ふと、青空が身を小さく揺らす。

「政宗、さん…」

自分の名を呼ぶ声に、一瞬驚いた。

「大、好き…」

それだけを言うと、部屋はまた静かになった。
開けた襖から月明かりが差し込む。
政宗は酒を机に置いた。

「Me too.青空…」

眠る青空の顔に近づく。

「I love you」

酒に濡れた唇で、小さく柔らかいそれに触れるだけの口付けをおとした。
そして、そっと襖を閉めたのだった。
外では、満月が一番高いところまで昇ろうとしていた。

満月の夜の下で



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -