※悪魔でも逆トリ番外編です。
ここから先は本編とはまた違うお話とお考えください。相思相愛設定。
それでは、どうぞ⇒
温かい日差しが差し込む、私の部屋の朝。
腰から上を起こし上げ、んーっと背伸びをして、いつものように挨拶をする。
「おはよう風魔君…あれ?」
隣にいるはずの、彼に。
「今日もいない…」
しかし、最近は朝起きてもいないのです。
もともと風魔君は私より早起きで、でも私が起きるとき、気配を察してか必ず私の隣に座っていてくれるのに。
「あ、青空ちゃんおはよー」
「おはようございます。佐助さん、風魔君知りませんか?」
きっと忍同士、佐助さんならわかるでしょう。
「さぁ。またそこら辺散歩してるんじゃない?」
佐助さんでもわかりませんか…う〜ん、とはいえ最近風魔君と話す(と言っても一方的)機会も少ない気がする。
「青空ちゃんが呼べば出てくるんじゃない?」
アドバイス通り、私はベランダに出た。
「風魔くーん!風魔くーん…」
早朝にこんなことしているのを見られたら、きっと鳥か何かを呼んでいるとでも思われそう。
少し間があって、黒い煙とともに彼が私の隣に現れた。
「風魔君!どこに行ってたの!?」
心配したんだよ、と語りかけても、彼は表情を変えず私にお辞儀するのみ。
それが、朝の挨拶か、はたまた謝っているのかは彼にしかわからない。
「おーい、ご飯できたよー」
佐助さんがリビングから呼んでいる。
風魔君は私の手を引いて、リビングへ向かう。
よくわからないけど、微笑んで。って、誤魔化された?
結局、風魔君は今日1日、ご飯を食べるとき以外はどこかに行っていた。
誰かに聞いても、皆口を揃えて「知らない」
なんで誰も知らないの?そんなことを思っても、誰にも否はない。
そして夜、布団に入る前に私は、風魔君に問い詰めてみた。
「風魔君っ、最近私が起きる前とかご飯食べるとき以外、どこに行ってるの!?」
少し興奮気味の私に、風魔君は少し押され気味。
「心配してるんだよ?朝起きてもいなくて、昼間もいなくて…風魔君がいないから…!」
怒っているのか、心配しているのか。自分でもよくわからない。
怒るのと心配するのは、紙一重だ。
「…もしかして何かに巻き込まれてるんじゃ、ないよね?」
まだ知らないことがたくさんある現代、そういうことも、容易に考えられる。
私のこの問いに、風魔君は黙って首を横に振った。
「っ、じゃぁどこに行ってるのっ?…何か、答えて…!」
言い切ったあと、私は気がつき、そして後悔した。
風魔君はしゃべらない、いや、しゃべれないのに、私は感情に任せて失言してしまった。
「…ごめん、なさい…」
暫くしてやっと謝った私に、風魔君はただ、無表情。
「っぅ…おやすみ、なさいっ…!」
この空気を振り切るように、私は彼に背を向けようとした。
―ガシッ―
しかしそれは、風魔君が私の腕を掴んだことによって制される。
「風魔、君…?」
振り返ろうとしたそのとき、私の体は彼に抱えられてしまう。
振り返る意味がなくなったとき、私と風魔君は暗い闇に身を投じた。
やっと止まったその場所は、マンションの屋上。
勿論その場は夜中につき、誰もいない。
横のまま抱えられていた私の目には、ただ表情を変えない風魔君と、バックに映るきらきら星。
そっと私を座らせると、彼は星が輝く天と顔を合わせた。
その横顔を見つめる私には、彼が何をしているのかなんてわからない。
わかることができない、悔しさ。それをギュッと抑える。
そんな私の目の前で、彼は拳を握り、大きく口を開いた。
「…ぁっ…!」
小さな声が今、確かに風魔君の口から発せられた。
「ぅ…ぁぁ…っ!」
その光景に、私はただ呆然としていた。
だって、風魔君が、声を出している。
大きさの問題じゃない。小さくても、立派な声。
本当は、大きく口を開けて拳を握り力を入れているところを見ると、もっと大きな声を出したいのだろう。
それでも今はまだ、小さな声しか出すことができない。
そんな彼に、私は涙を流した。
「風魔…君…!」
涙を流した後、私の体は動いた。
いてもたってもいられず、彼の胸に飛びつく。
そこで1人静かに、涙を流した。まだ、一生懸命声を出そうとしている、風魔君の胸の中で。
「…っぁぁ…ぅ!」
「頑張れ…頑張って風魔君…!」
そっと、拳に震える私の手を重ねる。
「…あ…っぁ!」
「お願い…風魔君…」
ふと、涙が流れる目で大空を見上げた。
私達の頭の上を横切る、流れ星。
それをしっかり目に焼き付け、再び彼の胸に頭を預けた。
「…ぅぁ…あ…ぅぁあ!」
「お願い、どうか…その声で…」
流れ星に願うは、風魔君のことであり、私の願い。
「私の、名前を呼んで…!」
「…っぅ…青空!」
空を裂くような、とても今出たとは思えない鋭い声。
「風魔、君…声…」
少し息を荒げ、長い前髪をかきあげる。そこから現れた額には、薄っすらと汗が滲んでいた。
彼の瞳には、再び涙を流している私の顔が映っていた。
温かい、さっきまで拳を握っていた手が、冷えた私の頬に当てられる。
「声…よかった、ね…!」
「あ、あ…な、まぇ…呼べ、た…」
これが、風魔君の声…!
「よかったね…本当に、よかったね…!」
「い、つ、も…れんしゅ、ぅし、てた…」
「いつも…?てことは、最近いなかったのは、練習しに…?」
頷く彼の微笑みは、いつもと違って、さっぱりとしたように見えた。
「ご、ごめんなさい…全然気がつかなくて、あんなこと言っちゃって…」
「気、にして、なぃ…」
優しく私を包む腕。そこは、とてもとても居心地がよい。
「これで、やっと、言える…」
次第に上手くなっている。ああ、これが風魔君の声なんだ。
なんて、優しい声
「青空、愛している」
聞きたかったんだ。その一言が、貴方を好きになったときからずっと。
その想いが、涙となっていっきに溢れ出た。
「ふぇっ…!ぅうっ…」
「泣かない、で。笑っ、て」
涙で潤んだ瞳を閉じると、一粒の涙が頬を伝い、彼の手に落ちた。
まるで、泣きじゃくる私をあやすような、啄ばむようなキス。
首に腕を回すと、腰をさらに引き寄せられ、口付けは深くなる。
「青空…青空、俺の、愛しい、青空」
息継ぎのたびに私の名前を、何度も口ずさむ。愛の言葉も添えて。
「風魔君…好き、大好き…!」
「…名前、で、呼んで、くれ…」
「…小太郎、君…!大好きだよ…」
返事をするように、熱い口付けを交わされる。
「もう、離さない…ずっと、傍に、いる」
「お願い、どこにも行かないで…私の傍にいて…!」
「ああ、約束する…」
忍は主を裏切らない、そう呟き、目尻に唇を落とされた。
主はどっち?私なの?貴方なの?
…そんなの、どっちでもいいんだ。
何度も重なり合う唇。
そこから彼に私の気持ちが伝わるように、ずっとずっと、頭の中で祈っていた。
誰に?
それは、もう信じることができなくなってしまった神様に。
どうか、ずっと、永久(とわ)に私の傍に…。
(どうか、この命が尽きるまで、青空の、傍に、いたい…)
頭の上のたくさんの流星に気がつかないまま、2人は心で、同じことを祈った。
感慨無量