「正臣くん童貞でしょ。男として突っ込みたいとは思わないの?」



午後三時のティーブレイク。
「この後どうする?」と予定を尋ねるみたいに軽い口調で男は危険極まりない爆弾を投下した。

そう言ってソファに腰をかけた男、折原臨也は悪戯でも考えついた子供のように無邪気に微笑んでいる。
上目遣いなその瞳に良く言えば妖艶な、悪く言えば邪まな光を宿していることに正臣は勿論気がついていた。

ごくり、と唾を飲下する。

食後の運動に誘われていることはわかるが、誘い方がいつにも増して正臣の好奇心を燻った。



「正臣くんのバックバージンは俺が貰っちゃったし、どうせなら童貞も卒業させてあげようかと思ってさ」



正臣としては童貞がどうのこうのより、臨也のマウントポジションを取れることが魅力的だった。
いつもいいように喘がされているのだから、たまにはやり返してみたい。

それに、臨也が受け入れる側にも慣れているようだったのもしゃくに障った。



「ん……」


伸ばされた手に誘われるように臨也を押し倒し、口づけを貪る。
返ってくる舌使いがなんともいえずいやらしくて性欲を掻き立てられた。



「そんながっつくなよ」



臨也は笑いを噛み殺しながら左手をソファの下に突っ込んで、小さなボトルを取り出した。
ローション。くそ、いつもこんなところに隠していたのか。



「無理矢理突っ込むのはなしなんすか」

「痛いの嫌いだからね」



と子供みたいな理由でにっこり笑ってボトルを渡される。
俺にはしたくせに、と自分の過去を思い出して舌打ちを漏らした。



「もたもたしてると、俺が挿れるよ?」

「………」



仕方なしにズボンと下着を下ろすと、ローションをありったけ垂らしてぬるぬるぬるのそこに指を這わせた。
人は勿論自分ですら触ったことない部位。閉じた襞を撫でると、臨也はびくりと身体を震わせた。

嗜虐心が燻られる。

痛がればいいんだと無理矢理指を突っ込めば「痛いってば」と眉をひそめてしてやったりと思う。

ローションを足しながら挿入を繰り返していると、段々指通りがよくなっていた。



「っ、く……」



苦しそうに、息を詰める顔が妙に艶めいていて、音がぐちょぐちょ響くように掻き回す。

俺もこんな顔をしてるんだろうか。

いや、今はそんなこと考えたくない。

最初はきつかった腔が少しずつ柔らかくなっていく。
臨也も慣れてきたのか息を乱しながらも正臣のそれに触れてきた。



「わ、もうガチガチじゃん。俺の掻き回して興奮しちゃった?」

「……っ」



当たっているから何も言い返せない。
臨也にゆるゆると擦られた性器は完全に勃起し準備万端となっていた。

くそ。なんとか主導権を取り戻さないと。

三本目の指を挿入したところでふと、思い出す。



「前立腺、どこ?」

「……聞かないでよ」



はい上がるような快楽を生み出す場所。正臣も何度も発狂しかけた。
既に臨也の性器も立ち上がっているけれど、もっと乱してやりたい。
自分の前立腺の場所を思い出しながら入口部分で指をぬっとりと這わす。



「もうあきらめたら」と言われてもしつこく中を弄っていると、僅かなしこりに指が引っ掛かった。



「ッ、あ」



普段聞き慣れない嬌声に心臓が高鳴り、他の指も集中させる。
細めの肢体が腹筋と肋骨を浮き彫りにして波立つ様が綺麗だった。



「あるじゃないですか」

「ぅァ、ああもう、最悪…ッ!」



悔しそうな臨也の表情が新鮮で思わず顔が綻ぶ。
強くえぐれば、唇を噛み締めて快楽を享受していた。



「ほら、臨也さんも気持ちいい?」

「ん、まァ、ね」



(やばい)

(何でこんなに色っぽいんだこの人)



太ももがびくびくと震え、頬が赤く染まって濡れた唇から唾液と嬌声が零れる。

俺以外の誰かも、見たのだろうか。

くだらない嫉妬心。

そのままイカせたかったが正臣自身も我慢出来なかったので、指を抜いて陰茎を押し当てた。



「く、は…ッ」

「あァ、ふ」



お互いの呼吸が乱れに乱れた。
俺は無我夢中で腰を振って快感に溺れた。
まるで搾り取られるように臨也のナカがうねって絡みついてくる。

キモチイイ。

のぼせ上がった頭はその言葉で満たされていて。

ぼんやり目の前に映る唇が笑みを浮かべているのを、その時の俺は気づいていなかった。







♂♀




「早漏れ」

「………っ」



言い返す言葉もなかった。
自分だって自分がこんなに早いとは思わなかった。
俺はあの後すぐに一人で達してしまい、コンドームもつけていなかったので臨也の中にぶちまけた。
呆れた臨也からストップがかかったのだ。



「俺がイき損ねた責任はどうとってくれるのかな?」

「……すいません」

「…ま、いいけどね。正臣くんにはいつも愉しませてもらってるから」



「おいで」と優しく伸ばされた腕に引き込まれるに臨也の胸に身体を預けた。

頭を撫でられると、なんだか自分が小さい子供のような気がしたけれど、心地好かったのでそのままでいる。



「正臣くんのバージンも童貞もこれで俺のもんだね」

「………バァカ」









ぜんぶ、はじめて
この気持ちも、きっと


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