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『あー、ビッシャビシャ。明日着てくもんが…』



ぽたぽたと水を滴らせる自分のワイシャツを見て、思わず溜め息が落ちる。
いきなりの土砂降りに、正臣自身はコンビニで買ったビニール傘で雨を凌いだものの、朝干していた洗濯物はすべてやり直しだ。


(くそ、明日何着てけばいいんだよ。真っ裸にスーツとかただの変質者だろ)



『ははは。天気予報見なかったの?』



若干聞き慣れた癖のある声に、首を捩る。
『夕方から降るって言ってたじゃない』と隣人がいつも通りのにやけ顔をテラスから覗かせた。

折原臨也。

先日の一件から顔を合わせれば話を交わす程度ににはなった。
悪い人でないというか、むしろ話しやすいし。



『そっちこそ朝干してたじゃないっすか』

『だって俺仕事在宅なんだよね』

『へー。何やってんすか?』

『情報屋』

『え?』

『ご利用の際はなんなりと。安くしとくよ』



そう言ってにこりと微笑む表情はゲイだからか知らんけど色気たっぷりで。
男の自分ですら胸が高鳴なるのがなんだか悔しくて、ふいと顔を背けた。



『けち』

『失礼な。あ、でも洗濯物なら今度から取り込んどいてあげようか?

『え』

『鍵預けてくれたらだけど』



にやにやとする臨也におくすることなく、正臣ははいていた短パンからキィを取り出して渡す。



『ハイ』

『え』



驚いたのは臨也の方だった。
いくら知り合いになったとはいえ他人に家の鍵を任せるなんて浅はかじゃないのか。
じ、と珍しくも真顔見つめる目がそう言っている。



『本当に?いいの?』



『俺何に使うかわからないよ』と茶化して見せたが、正臣の気持ちは変わらなかった。



『俺はあんたの好みからハズレてんだろ。なら平気じゃんか』

『……』

『隣が知り合いだったら頼れるし。お願いします』



ペコリと頭を下げると、臨也がぷっと吹き出した。
そのまま腹を抱えて豪快に笑い出す。



『ハハハハッ、いいね紀田くん。面白い。オーケーオーケーやっとくよ』



隣人は遠慮もなくズケズケ物を言うくせにちょっといい人だった。



その後も相変わらず見るたび違う男が出入りしてたけど


(まぁその辺は個人の自由だしな…うん)


自分には関係ないとある種の一線は引いたつもりだった。

ところが


『今朝イイところ邪魔されたんだけど』


と目覚ましが煩いため寝れないなどの不平不満を訴えられ、それなら


『臨也さんが俺ん部屋の目覚まし止めに来て下さいよ。合い鍵持ってんだし』


と言って以来、目覚まし時計を壁際に置いて鳴らせば、本当に踏み込んで起こしてくれるようになった。

お陰で遅刻しないですんでる。

(すげー便利)

さらに気が向いた時にはメシまで作ってくれるありがたさだ。


今もこうして温かい味噌汁を啜っている。


(便利なんだけど)

(あれ)

(ちょっと待てよ、おい)



「何?」



思わず見つめていた視線に気づいた臨也がどうしたと問う。
目があってまた心臓が跳ね上がる。

これじゃまるで俺がこのホモに構って欲しいみたいな



「な、なんでもないっす」



慌てて視線をそらし、白米をかきこんだ。


(いやいやいや。それはナイ。絶対ナイ。)



「あれ、まずかった?」

「いや。うまいっす」

「それはよかった」



笑顔を見ると嬉しいなんて


(まさかそんな馬鹿な)










お隣りさん
何かが変わっていく





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