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「ムカつきますーー!!!!!!!」



一人の少年が急に立ち上がって雄叫びをあげる。

手に握っていた書類がぐしゃり、と音を立てて潰れた。



「大切だ、とか言っておいて、今日は恋人が来るからって僕を邪魔物のように追い出したんですよ?!」


「師匠うるさいですー」



骸の向かいに座っていたエメラルド色の髪をした子供が、えい、えい、と兄弟子の食すポップコーンを投げつける。


本日は千種は仕事に出ているので、残りの部下二人と一緒にアジトで情報整理だ。

と言っても、お菓子パーティのようにそこかしこに甘いものが散らばっていて、とても仕事中とは思えない。



「フラン、何をするんですか。いつも食べ物は粗末にするなと言ってるでしょう」



骸が鋭い目で諌めると、フランは落としたポップコーンを素直に拾って、何気ない顔で元の袋に戻した。



「骸しゃんペットなんれしょー?仕方ないんじゃないれすか?」



俺らの扱いも酷いじゃないれすか、ともう一人の少年が拗ねるように菓子袋へと手を伸ばす。

バリバリと落ちたポップコーンをほうばる兄弟子は、犬と書いて「けん」と呼ばれていた。


確かに、彼の仲間に対する扱いはお世辞にもよいものとは言えないが、皆自発的に骸の側にいる。



「え、師匠ペットなんですかー?ヒモ?」


「どこでそんな言葉覚えてきたんですか。違いますよ、ペット。人権ないですからね」



え。とフランと犬が顔を見合わす。

彼等が知る骸とは、誰より人にへつらうことが嫌いな人間だ。



「師匠がそれに耐えてるなんてよっぽど魅力的な相手なんですねー」


「別に。ほんの少し居心地がよかっただけです。……なのにあのチュー野郎」





『じゃあ、これ以上犬がヤキモチ妬くといけないから』





「誰が妬きますか!僕は綱吉くんと一緒にお風呂に入って、シャンプーまでしてもらってことあるんです!綱吉くんのパンツまで洗ったことあるし、それから」


「む、骸しゃんストップ!ストップれす!落ち着いてくだしゃい」



明後日の方向へ叫び出した主人を止めるがごとく、犬がどう、どうと腰に巻き付く。

フランは目をまんまるに見開いてその様子を眺めていた。



「はっ、落ち着いてますよ?僕は基本クールですから」



((絶対違う………))

二人はすかさず心の声を揃えた。骸の異変には目を見張るものがあるが、同時に彼をここまで変える相手に興味を持つ。



「結局は師匠妬いてるんじゃないですかー?」


「―――妬いてるかもしれませんね。犬並に」



核心に触れたつもりだが、骸はおどけてみせた。

動物の嫉妬心なんて、なおのこと本能的なものだと、彼は気づいているのだろうか。



「向こうも……恋人もいるのになんで師匠なんかペットにしてるんでしょうね?」


「……さぁ」



骸は軽く肩を竦めてみせた。




「都合のいい精神安定剤ってとこですかね」




そう一人納得するよう結論づけて、チョコレートを一つ口に放り込む。







「―――仕事より愛取らないで下さいねー」


「僕がそんな男に見えますか」




くふ、と不敵に笑うと、少し冷めた紅茶を口に含んでパソコンを弄り出す。



(見えるから心配してるんだけど)


(無自覚だから余計になー)




でも




自分達は彼についていく






助け出されたあの日、心に誓ったのだから。





「ハイハイ。これ千種にーさんから渡された資料です。ターゲット周辺人物の顔写真だとかー」


「……どうも」







今は、ただ、見守ろう











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