ベッドに横たわる一個の固体。

このまま置物になりたいたいと思うほど、寝不足プラス酷使した身体は鉛のように重たい。



「……ぅ…」



カーテンの隙間から漏れ出る朝日によって瞼越しに網膜を焼かれ、紀田正臣は小さく声を上げた。

セットしたアラームがまだ鳴っていないので、起床時間には到っていないのだろう。
思ったより早く目が覚めてしまった。


(ねむい、はらいたい、こしもいたい)


希望としてはこのまま泥のように二度寝したいが、それでは次は起きれまい。

光を避けるように寝返りを打つ。
無意識に伸ばした手の先には、全ての原因である温もりは消えていて。

酷く不愉快に感じた。



「………」



くしゃりと匂いだけ残るシーツを握り締め、正臣は渋々身体を起こす。



(シャワー……浴びなきゃ……)



いつもの事だ。

先に意識を飛ばしてしまう正臣。
正臣が目を覚ます前には必ず姿を消している臨也。


悲鳴をあげる下半身をなんとか動かし、熱いシャワーを浴びる。(この時にナカの後処理)
昨夜の二人分の食器を片付けて、買い置きのカロリーメイトを食わえ学校へ。


そんな日常になるはずだった。



(あれ……)



食器を流しに持っていくと、空になった器と使用済のスプーンが乾燥棚に置かれている。

これは昨日作ったプリンの残骸だ。



(臨也さんが、食べたんだ…よな?)



昨夜はデザートを食す前に情事に持ち込まれてしまったはずだ。



(一言くらい声かけてくれればいいのに)



なんて間違っても口にしないが、自然と顔が綻んでしまう自分がいた。



だから



気がつかなかった



背後に忍び寄る



足音に






「くせぇ」






「!?」



反射的に振り向いたそこには




愛しい自分の義兄。




(なんでなんでなんで?!)




当然の疑問は口から出ることはない。

しかし普段の穏やかな静雄とは思えないほどの殺伐とした雰囲気に、怒っているのは明白だった。



「し、ず…に」



喉からは掠れた息しか漏れない。

いるはずのないその人に、正臣ただただ動揺していた。




「これ、あいつと食ったのか?」




これ、と代名詞された視線の先にはカレーに使用した皿が2枚。

キレた静雄からは想像もつかないような落ち着いた声色が、逆に空恐ろしい。

“あいつ”が誰かとは聞くまでもなかった。



「ぁ…これ、は」



浮気の証拠を突き付けられた主婦とはこんな気分なのか。

勿論静雄と正臣はそういった関係ではないが、正臣の行為は完璧なる裏切りだった。


言い訳が思い付くはずもなく、呼吸もままならないまま涙が滲む。



(死にたい)



そうまで絶望した瞬間





ふわり




正臣の頭に、昨日と変わらない温もりがおりてきた。



「お前は悪くない。悪いのは俺だ」


「え…」



正臣を責めるならまだしも、静雄は何故自分が悪いと言うのだろう。

戸惑いながら反応を返す前に、静雄は声をはりあげた。




「おい゛ィ、ノミ蟲いんだろぉ?!さっさと出てきやがれェェェ」


「?!」



いる?


(この家に?)


正臣が信じ難い顔をしているうちに、静雄は辺りを蹴散らしながら玄関に出る。

正臣も慌ててついていった。

静雄はコートなどを仕舞っている収納スペースの前でばぎばきと指を鳴らす。



「人ん家に不法侵入してタダで帰れると思うなよ」



バキャァッ



躊躇なく振り下ろされた拳。

呆気なく粉砕した板と共に



中から臨也が転がり出てきた。



「!!」



ぶち壊されることを予測していたのだろう。

出てきた臨也はよ、と器用に体勢を立て直し、爽やかとも言えるお得意の笑みを浮かべた。



「やだなぁ。不法侵入じゃないよ?ちゃんと合意のもと。ね、正臣くん」

「………っ」



視線が絡み合う。

お互いの心を探り合うように。
いや、正臣の心など彼にはお見通しだろう。


緊迫の余り息をするのも忘れた。


彼はどこまで喋る気なのだろうか。

正臣の頭はそれでいっぱいだ。
彼の目はこの状況を確実に楽しんでいる。

臨也が来て、食事をしたことまではバレている。
肉体関係までに至っていると静雄はまだ知らないはず。

いや、それ以上に



(言わないで)





正臣が静雄に兄弟以上の想いを抱いているということを







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