相互利用


二人の関係を表す


四文字の羅列







「ん、んむぅ…ッ…」



バードキスから徐々に口づけを深くしていく。

臨也さんのキスは淡泊というかあんまりねちこっくないから少し物足りない。

自ら舌を絡めにかかると、うっすら笑われた。



「ぷは、」

「……ここでする?」

「や。へ、やで…」



静雄との生活で溢れるこの場でするのは気持ち的に憚れる。

でも雰囲気を壊したくなくてぎゅ、と彼の服を掴むと、ふわりと身体が宙に浮いた。



「わ、ぇ?…臨也さん、」



柄にもなく顔が真っ赤になって。
落ちないように思わず彼の首根っこに腕を回した。

これは世に言うお姫様抱っこというやつだ。(される側だけれど)

いきなり何事かと臨也の顔を見遣ると、彼は爽やかに口端をあげた。



「“シズちゃん”ならやってくれそうだろう?」


「……っ、」



何を期待していたのか。

高ぶった気持ちが一瞬にして収縮する。


“シズちゃん”



正臣が


臨也に


抱かれる


理由だ





♂♀





『この部屋で自慰するの?あいつを想いながら?ほんとに正臣くんは寂しい子だねえ』

『…ちょ、返して下さいッ』



いきなり俺の部屋のベッドで跳びはねだした中二病患者。

隠していた静雄のワイシャツを目敏く見つけた彼の不躾な質問に、一気に自分が恥ずかしくなった。

(兄の手を想像して性欲処理)

でもどうしようもなかったんだ。

抑えきれなかった。我慢できなかった。苦しかった。

(誰かに迷惑をかけた訳じゃない)


それでも

彼の言葉は自分を丸裸にする。




『うるさい…ッ、あんたに……あんたに俺の何がわかるんだ!!』




泣きながら癇癪をおこす正臣に、臨也は最初と変わらない笑顔ですっと華奢な手を差し出した。




『俺を使っていいよ』


『……え?』




最初は何を言ってるか理解できなかった。




『だから、俺を“お兄ちゃん”だと思って』




“抱かれてみない?”





悪魔の囁き



二人に置いていかれたみたいで淋しかったのかもしれない。


一人になりたくなかった。



俺は震える手で


神にも縋るように


彼の提案を受け入れた。





♂♀





「臨也さんでも俺を持ち上げられるほどの筋力はあるんですね」

「馬鹿にしないでよ。これでもシズちゃんに殺されずに生きてきたんだから」



既に熟知されている“正臣”と書かれたプレートがぶら下がる扉の前で、臨也の足が止まった。

悪戯を思いついた子供のようににやりと笑って正臣の耳元で囁く。



「今日はさ」

「え?」

「あの部屋でシてみない?」



臨也の視線の先には大好きな大好きな兄の部屋が。



「何言ってんすか!ダメに決まってるでしょ」

「えー。その方が正臣くんも興奮するんじゃないの?」

「ふざけんな…ッ、ばれたらどうする…んっ」



足をばたつかせて暴れる正臣の文句の続きは、臨也の口づけで飲み込まれる。

そういえば彼は怒鳴られるのが嫌いだった。



「はいはい。つまんないお姫様」



臨也は器用に片手で扉を開けて、正臣をベッドの上に落とした。







俺が彼に抱かれる理由は理解できただろうか。
では臨也さんは?


彼が俺を抱く理由は勿論俺が好き、なんて砂糖菓子みたいに甘いものではない。





『だってシズちゃんが大切に大切にしてたモノ、俺が奪っちゃってたなんて最高の報復だろ?』





単純明快。


ただのしず兄への嫌がらせだ。



だからこそ


気兼ねなく彼に抱かれる――――はずだった。






「ぁ、ァ…しずに、ぁ…そこ…ッ」



臨也さんとのセックスはどこまでも優しくて甘い。

どちらかといえば俺に臨也さんが合わせる感じで行為は進む。

体勢は顔の見えないバックからの挿入。
俺はしず兄のワイシャツにしがみつきながら妄想に耽れるという訳だ。



「……は、」



言葉を交わし合うこともない。

俺がしず兄に抱かれてる思い込ませるのに声は不必要だから。


響き渡るはスプリングの軋む音と淫猥な水音。



非日常的な音が日常的な音になりつつある非日常



けれど


相互利用


この関係に


(終わりは近い)


予感はリアルに侵食。


俺の勘はよく当たる。



(だって)




俺は既に彼が“しず兄”の代わりにならない事を理解していた。




(だって違う)


触れる指も

唇も

体温も

漏れる吐息も




何もかも違い過ぎたんだ。





「しずに、しずにィ…ッ」



それでも俺は馬鹿みたいに名前を連呼して固く目を閉じる。



もし彼が


何の打算もなく俺を好きだと抱いてくれたなら


迷わずこの腕に飛び込んでいたかもしれない


けれど


相互利用


(そこに愛はない)



だから


触れる指も

唇も

体温も

漏れる吐息も


必死で拒絶して



「あァ、ふ…ッぁ、ァァア」



快感だけに身を委ねる。



だって







(報われない恋はもう嫌だ)






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