(静正義兄弟パロ)






いつも通りの朝。

薄いブルーのカーテンを開け放ち、朝日を部屋いっぱいに取り込む。

すると、眩しそうに毛布の中でもぞりと動いた塊に遠慮なく正臣は跨がった。



「しずにぃ。もう8時だよ?起きろー!」

「う゛、…ん」



跳びはねるように振動を与えて肩を力一杯揺さぶる。

静雄は低血圧なので朝には弱い。
これくらいしないと中々目を覚まさないのだ。



「ほら、トムさんと約束してるんだろ?早く起きないと朝メシしず兄の分も食べちゃうぞ」

「………くう。」



眠い目を擦りながら上半身を起こした兄は眉間にシワが寄り、酷く不機嫌そうだ。

最初は嫌われてるのではないかと悩んだこの顔だが、寝起きはいつもそうだと気づいたのはもうずっと前になる。


正臣はそんな静雄におはよ、と笑ってから小走りで台所に戻った。



しず兄。

もとい、平和島静雄は7歳離れた正臣の義理の兄である。
正臣が3歳の時に母親が再婚し、相手の連れ子が静雄という訳だ。

よって二人の血は繋がっていない。
それでも静雄は正臣にとってかけがえのない家族であり、憧れのヒーローであり、小さい頃から金魚の糞のように後をついて回った。

本人が望んでか望まずか、喧嘩が異様に強く、今は先輩の紹介でテレクラ金回収の用心棒をしている。


母は数年前に他界し、義父さんは出張で海外勤務。


必然的に今は二人で生活していた。



「カフェオレ自分で入れてね。今目玉焼き作ってるから」

「いつも悪ぃな。」

「兄弟水入らずじゃん。その代わり皿は洗っといて。俺もう行くから」



カリカリのベーコンと半熟の目玉焼きを皿に盛りつけて、トーストと一緒に持っていく。

そのままエプロンを脱ごうとすると上からくしゃりと頭を撫でられた。



「お前、おっきくなったな」

「……育ち盛りだもん」



(大きい、手)


指から香る煙草の匂いも自然と自分を安心させる。
上を見上げると、穏やかに微笑む静雄がいて、思わず顔が赤くなった。




そう、俺はこの兄である平和島静雄に恋をしている。


長い長い片想い。


もう何年も叶うはずもない想いに心身を燻られていた。


別に男同士だからって理由じゃない。

むしろそこに原因がないからこその辛さなのだ。



じゃあ何故かって?




それは―――…







「あいつは元気か?」

「…ああ、帝人?」


“あいつ”


自分で名前を出して胸に何かがぐさりと刺さる。

生傷を更にピンセットでえぐるような痛みに耐え、平気な顔を装うのにももう馴れた。



「最近忙しくて会ってなくてな」

「うん、元気だよ。なんだ、最近会ってないんだ?」



竜々峰帝人は俺の親友であり、静雄の恋人だ。


世に言う報われない恋。


それでも帝人に兄を紹介したのは自分だったりして。



『正臣のお兄さん、かっこいいね』



後悔してもしに切れず。

育ちきった恋心を枯らすことも出来やしない。

行き場のない想いが胸の中で未だ渦巻いている。


(一生この気持ちと付き合っていくのかな)


二人とも大好きだからこそ、想いを口にしようとは思わない。

自分が隠し通せば、全て丸く収まる。
どちらも失わずに済むのだ。



俺は、側にいられるだけで幸せなのだから。



「たまには会ってやらないと寂しがるよ」

「ああ」

「じゃあ行ってきまーす」



消えることのない心臓の痛みを抱えながら。


俺は笑顔で家を出た。






♂♀




「はよっ、帝人!」

「いたッ。あ、正臣。おはよー。」


見つけた親友の背中に後ろからタックルをかます。
断じて朝の恨みとかではない。うん。



「聞いたぞ〜お前最近兄貴と会ってないんだって?」

「あ、うん。静雄さん仕事忙しいみたいで」

「ちゃんと会わないと兄貴は意外にモテるぞォ」

「〜〜っ、正臣のいじわる!正臣こそナンパばっかしてないで早く本命作りなよ」


(お前が、言うな)


そう思ったけれど勿論口には出さない。

憎らしいぐらいに、正臣はこの親友が大好きなのだ。



「そんなことしたら世界中の女の子達が悲しむだろー!ああ、罪な男。おれ…!」

「……ハイハイ」




もう一人の大事な友人、杏里を見つけて走り出すまであと45秒。

おはようのキッスをかまそうとして親友に鞄で頭を殴られるまであと1分30秒。



そんな感じでまたいつも通りの一日が始まる。










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