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帰国してすぐにボンゴレ本部へ。

自然と速まる足を諌めて、ドアの前でこほんと咳払いを一つついた。

何を自分は慌てているのだろう。

自分が出張している間に設置された瞳孔認証システムに瞳を合わせれば、ピーと機械音がして扉が左右に開いた。


そこには二年ぶりの待ち人が。


久しぶりに会って、抱きしめて、いつものようにその柔らかい唇に自身の物を重ねようとした時だった。



「もう、こういうこと、止めよう」



終わりは突然、そしてどうしようもない程あっさり訪れた。いや、元々始まってすらいなっかたのかもしれない。

そんなもの、失くして初めて気が付くものだから。


研究者達の都合良い人体実験の末、自分の瞳に無理矢理刻まれた六道の呪いを、マフィアに対する憎しみを、決して忘れたわけではなかった。
むしろ能力のみにおいては自分に現状の打破、そして理不尽なこの世界までも壊す力を与えてくれたことに少なからず感謝している。

過酷な人体実験の末埋め込まれたその瞳を閉じれば、忘れることを許さんとばかりにリアルに訴えかけてくる数々の記憶。情動。叫び。


自分は只、この世界、六道骸という固体を生み出したその存在に離反したかっただけだ。


手始めはマフィア、マフィアの殲滅。


そう言って奇襲を仕掛けたものの、あっさりと手解きにされた憎むべきイタリア最強ファミリーボンゴレ十代目。

彼を抱いたのは、ほんの、ちょっとした出来心だった。

今まで見てきたマフィアとは思えない甘さで僕をヴィンリチェの牢獄から助け出した後、その甘さがどんなものかを分からせるために男の自尊心を踏み弄って強引に組み敷いた。

最初は泣き喚いて拒絶をあからさまに示したが、度重なる行為に互いに言いようの無い快感を見出していった。

それは肉体だけでは無かったのだ。

自覚の片鱗もないまま、全てを包み込んでくれる彼に、絶対的であった僕という憎むべき存在は絆されて、ふやかされて、どろどろになって。


人を愛することは、自分を愛することだと初めて知った。


彼が綺麗だと言ってくれたこの瞳を好きになった。


初めて生まれた愛は初めて感じる痛みを伴う。

彼に触れないと肺がぎゅうと真綿でじわじわと締められるようで。

溺れるように離れられなくなり、暗く深い海の中から酸素を欲するように彼を求めていく内にだらだらと今の関係に至った。




「俺、結婚するんだ」




身体がぴたりと稼動を止め、震える唇から乾いた空気が漏れた。



「は………」



どうして、いきなり。

余裕もなく肩を掴み、揺す振って理由を尋ねることも出来なかった。
ちんけなプライドが邪魔をした。

一方でボンゴレでも屈指の頭脳をもつ自分が、彼の一言に柄にも無く頭が真っ白になっていて。
じわりと額に脂汗が湧いて、体中の血液がどっと引いて行く。



「子供も、いるんだよ」



愕然、とした。腕から力が抜けていく。

そう言ってくしゃりと顔を歪めて微笑む彼の表情は、紛れも無く“父親”のもので。

自惚れではなかったはずだ。
彼の一番傍にいて、ずっと見てきて、彼も少なからず自分を想っている、そう思っていた。


いつからそんな目をするようになった?
いつからその瞳は僕があんなにも渇望していた光を失った?

途方もない絶望の淵に立たされて。
自分が出来ることは一つしかなかったのだ。









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