通い慣れた寝室。

ベッドの配置、シーツの色、コンドームの隠し場所まで既に把握済みのその部屋で。

普段とは異なる目の前の惨状に、思わず正臣は眉をひそめた。



「……誰か、いたんすか?」



不機嫌が悟られないように、さも落ち着いた感じで疑問を口にする。

聞きたくもなる。

いや、自分に尋ねさせたいのだろう。

わざとらしいほどに残った、情事後の悪臭と、白濁まみれのシーツ。



「うん。まーね。」



臨也は背後のドアに体を委ねながら嬉しそうに微笑んだ。

この人のことだから自分に見せ付けるために現場をそのままに残したのだろう。


(悪趣味だ)


今に始まったことではないが。



「……なんで他に抱く奴がいるのに、俺を呼んだんですか?」

「ははは、嫉妬?愛されてるなぁ。俺。」

「違います」



きっぱり告げると一瞬驚いた顔をして、ざーんねん、とまたいつもの勘に触る笑みを浮かべる。

まるで、不思議の国のアリスに出てくるチャシャ猫のような。



「ふふ。相手、誰だと思う?」



言いたくて堪らない、といった表情。



「君のよく知ってる人だよ」


「!!」



沙樹か

と始めに浮かんだ名前は瞬時に打ち消される。

彼女はさっきまでずっと一緒だったし、彼は自分を性欲の相手と見ない、そこも好き。と笑っていた気がする。


もしや――…



「……」

「多分、2番目に出てきた名前が正解かなー?」



どこまでも自分の思考回路は筒抜けで、思わず唇を噛み締めた。



「いやー。初々しくて可愛いかったよ。初めての君に似てたなぁ」

「…っ」





(なぁ、嘘だと言ってくれよ)



(帝人)




「どうして…っ」



重く黒いものが。


胸へ

喉へ

頭を通って癇癪。






(帝人のバカヤロー)


(まんまと騙されやがって)



でも知っている。

狙われたら逃れる術など何処にもないのだ。

じゃあなんで



(この人は)

(俺を解放してくれないんだ)

(他にいるなら)



「あえて言うなら君のそういう顔が見たかったから、かな。」



思い通りにいったとばかりに口端を上げて。



「帝人君に手を出した俺が憎い?」



それとも




「俺を誰かに取られたくなかった?」



毒の篭った声と共にそっと後ろから抱き締められる。




「…っ、さわるな!!!!!!!」




なんで


さっきと同じように否定できないんだ



ぱしりと払い退けたその腕。

触れられただけで身の毛がよだった。



他の人を



抱いた








(最低だ)


(最低だ最低だ死ねよ俺)




感じたのは



帝人の心配ではなく



醜い






『ははは、嫉妬?』







(最初から、見透かされていた)












四面楚歌
俺を支える全てが崩れた




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