“さっさとケツ出しな”




「…ちょ、いやっすよ」



にこやかな笑みの裏に隠れた鋭い眼差しに、正臣は本能的に後ずさっていた。

それでも臨也は間合いをぐいぐい詰めていく。



「ッ、」

「正臣って俺の言うことに逆らう子だったっけ?」

「や、もうしませんからッ」



両手を掴みあげられ、顔を覗き込まれると、思わず視線を反らしてしまう。


(きらいだ)


この人の顔も、声も、眼差しも。



(ぜんぶ、支配されてる気がする)




「悪いことしたって自覚はあるんだ」

「わ、」


腕ごと引っ張られ、ベッドへ落とされる。

純粋に力比べをした事はないけれど、彼のマウントポジションを取れたことがない。(無理矢理乗せられたことはあるけれど)



「待ってくだ、」

「じゃあ謝罪はしっかり態度で示さないと」

「あぅッ」



ベッドベッドに無理矢理黄色いハンカチーフで両手首を縛り上げられる。

やはり先程の出来事は見えない彼の逆鱗に触れたらしく、慣らしもしないナカに無理矢理指三本を突っ込まれた。



「ひ、いやだぁ」

「上の口で飲めないなら下の口で飲むしかないじゃない?」



なんて理屈だ、と胸中で罵りながらも筋肉の力を緩めて痛みを緩和させる自分は、すっかりこの行為に慣れてしまっている。



「ひ、なかァ…ゆびがぁ、あ、あぅ」



下半身から響く、腸液と精液の混じった卑猥な水音。

羞恥で顔を真っ赤しながらも、慣れた指は快感を探り出していく。



「そこ、ゃ、ッッ」



熟知されている前立腺を押し上げられ、先走りが漏れた。



「美味しいだろ?病み付きになっちゃった?」



涙を滲ませながら首をぶるんぶるん振ると、臨也は嬉しそうに指をぐりぐりと動かす。



「謝る気になったかい?」

「…っ」

「ほら、臨也さんの精液飲ませて貰えて嬉しいですって言ってごらんよ」

「だれ、が!…ひ、」



身体が一気にのけ反る。

ずるう、と指が引き抜かれ、安堵すると共に物足りないと感じる自分が憎たらしかった。



「強情だなぁ。……あ、いいものがあった。」



何かを思いついたように臨也が部屋を出ていく。

彼が戻ってくれば、確実に状況は正臣に悪いものとなるだろう。
なんとか手枷を外そうと手首を捻るが、さらに強く食い入るだけだった。



「おまたせー」

「…!!」



自分の目を疑った。

何故かって行く先が見えてしまったからだ。



怪しく微笑む臨也の手には火が燈された真っ赤な蝋燭が。



「いざ、」

「お得意さんに貰ったんだよ。使い道に困っててさ。」



ごくり。


唾を飲み込んで、神にも縋る想いで臨也を見上げるが、みるも虚しく死刑宣告を受ける。



「躾には罰も必要だよね」





♂♀





「ひっッ、」



熱く熔けた蝋がとろりと胸に落とされる。

背骨が孤を描いて腹筋がぶるぶると震えた。


(あつい)


一瞬の訪れる痛みへの恐怖に視界が歪む。



「も、ゃ…ッアっ」



今度は臍の窪みに。

涙がじんわりと零れた先に至極嬉しそうな笑みが見えた。



「ほら、言う気になった?」

「だれ、がッ」



ぽとり。



「んンンッ」

「俺を怒らせないでね。次は下いくよ。ココ。」



指差された先は緩く立ち上がった自分自身。



「先っぽかなー。埋めちゃおうよ。もう出せないように、さ。」

「ふざけ…ッ」



そんなことをしたらどうなるか。
想像しただけで死にたくなった。

それでも



(このひとはやる、ぜったい)


手の平でシーツをきつく握り締めた。




「やめ、て、くだ…さい」



屈辱だ。


唇を血が出るまで噛み締めて喉を震わせる。



「ほら、賢い紀田くんならなんて言えばいいかわかるだろ」



蝋燭を視界にちらつかせながら、ゆるゆると脇腹を撫でた。




「……いざ、や、さんの、」

「ん」






“せーえき下さい”








仏の顔も三度まで
そろそろ彼を殺す計画でも立てようか




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