働かない頭に、ぼんやりして意味を為さない視界。
何故自分は此処にいるのだろう。
何故自分はこうして倒れているのだろう。
誰に向けてなのか解らない問いが心の中で波紋を呼ぶ。
頬にあたる冷たく湿ったコンクリートの感触だけがやけに心地好かった。
「おや。生きてるかなー?」
突如として不快な声が上から降って来る。
ああ
この人か。
そう判断した瞬間に自分が地面に這いつくばっている原因を理解した。
「……おまえ、かっ」
「すぐ人のせいにする。悪い癖だよ、正臣くん」
滑らかな口調が弱り切った神経さえも逆撫でする。
霞む視界でも首謀者である折原臨也がしゃがみ込むのを気配で感じた。
「俺はね、ただ君を襲ったリーダーの通いつけの酒場のマスターの娘さんの友達に君の事をちょろっと話しただけ。ほら。ここまで来ると偶然以外の何物でもないだろ?」
「…、ッ」
くそったれ。
全てわかってた上でやったくせに。
胸の内で毒つきながら奥歯を噛み締めた。
彼は何処か誇らしげに自分の仕組んだネタを口にする子供じみた部分がある。
人間を追求する彼の実験体になるのはもうこれで何度目だろうか。
「……どう?男に犯される気分って?」
「さい、あく」
「……よく頑張ったね」
よしよしと精液に塗れた金髪を撫でられる。
「……ッ」
(ばかみたいだ)
鼻の奥が痺れるように涙が眼球の周りを覆う。
この胸を締め付けられる気持ちは何だろう?
(安心感?)
まさか
「立てる?俺の家まで来れば、熱い風呂に入れてあげるよ」
「……」
「美味しい夕飯も用意してあげる」
細い指に涙を拭われ、俺は泣いてる事に気がついた。
どんなに酷い仕打ちを受けても、泣かなかったのに。
なんで―――…
「………ハイ…」
俺はただそれだけ口にした。
鞭と飴
は上手く使いわけよう