「よいしょ」
視界が一気に反転。
目の前の人物は変わらないのに、バックがいつのまにか見慣れた白い天井に変わっている。
今まで自分の下で口づけを甘受していた、恋人と言うことの出来ないセックスフレンドが、柔道の寝技のように上手い具合にくるりと身体を入れ替えて黄瀬のマウントポジションに君臨していた。
なんかすごい威圧感だ。
「く、黒子っちどうしたんスか、急に…」
「前から疑問だったんですけど。セックスするなら別に黄瀬くんが下でもよくないですか?」
「え…?」
淡々と告げられた彼の言葉を理解する前に、ぐにぐにときつく閉じた後腔に細い指先が触れる。
構造を確かめるかのようにその部位を弄りながら、空いた反対の手を黄瀬に向かって開いた。
「ローション」
可愛い口でなんていうことを言い出すんだろう。
さあ、差し出せと手を突き出す黒子に軽い酩酊を覚えながら首を横に振る。
「えっとあのお、黒子っちにはまだ早いというか…」
「無理矢理突っ込みましょうか」
「はい、どうぞ!」
目がマジだった。
そんなのは勿論いやに決まっている。
蛇に睨まれた蛙のように。
思わず固まってしまった手で握っていたローションのボトルをすかさずお渡しした。
☆
「……せまい…よくこんなところに入れてましたね…」
(そんなまじまじ見ないで欲しい…)
じっくりと局部を凝視されて、理科の実験じゃないんだからと悪態をつきたくなる。
ローションをたっぷり絡めた指で後腔を混ぜほぐされること早十分。
既に前座に飽きたのか「もう入れましょうか」なんて自身の性器を黄瀬の窄みに押し付けてぐぐっと挿入を試みる。
指が数本入るくらいにまで慣らしたものの、さすがに自分の急所を入れるとなると感覚神経が集中している分痛みも感じる。
ましてやそこに挿入することを意図したものでは決してないのだから。
黄瀬はその辺り黒子に嫌がられないよう、それはもう丁寧に快感だけを刷り込んだ。
「ッ、…〜ッつ」
―――――まあそんな簡単に入るはずもなく。
まだおそらく雁の部分も押し込めていないだろう。
そこさえ通り過ぎてしまえば後は楽なのに。
それでも経験したことのないような痛みに顔をきつく歪めるものだから、少しでも和らげようと回した掌で背中をそっと撫でて声をかける。
「あ―…俺が自分で解そうか?」
「……僕がります…っ」
「………ッ!!」
めりっ。
彼の負けず嫌いがここでも発揮され無理やり突き進められたソレに黄瀬のアナルも悲鳴をあげる。
それでも自分で精一杯の黒子は黄瀬の様子に気づかない。
(苦しそうだな…)
黄瀬よりもずっと。
自分から言い出しておいて彼の矜持が許さないのだろう。
なかなか首を縦に振る様子はない。
眉間に皺が。
歯を食いしばる、その愛しい一文字にキスがしたい。
「大丈夫っスか…?」
「ッつ、もっとゆるめろ!」
「無茶言うっスね…」
前に触れてくれるわけでもなく、こっちとしては大きな違和感と裂けた痛みだけ。
(それでも)
「………………萎えました」
結局音をあげたのはさらにその数十分後。
黒子はずるりと性器を抜いてそのままぐったりと黄瀬に身体を預けた。
「なんですか…黄瀬くんはタチの才能でもあるんですか…」
「いや…」
(童貞と非童貞の差かな…)
「……今失礼なこと考えましたね」
「いてててててッ」
頬を伸ばせるだけつねり引きあげられる。
(モデルの顔が!!!!!)
赤くなった頬を押さえながらも、そんなスキンシップが嬉しくて。
「今度俺が教えるっスよ」
ちゅっと下から唇を奪うと、そのまま舌で割る。
彼に、俺とのセックスを嫌いになって欲しくない。
慣れた身体は舌をねちっこく絡めるだけですぐ気持ちよさそうに瞳を細める。
イき損ねて身体は未だ欲求不満なのか、情欲に満ちてゆくその表情にたまらなく自分も駆り立てられた。
(―――――俺がネコでもいっか)
君との時間が増えるなら
ボディランゲージ