「……なんで来るんですか?」
二回目の訪問は初回より荒んだ瞳できつく拒まれた。
少しだけ開いた扉からこちらを睨みつけるように覗く。
精神不安定に陥る彼の心のバランスはやはり波があるようで。
今日は随分機嫌が悪いらしい。
「………入れてよ」
「僕に構わなうな…ッ」
「………黒子っち」
猫に追い詰められたネスミのように。
足を差し入れてなんとか部屋に入り込むと、力任せにその場に押し倒された。
「いっ、た…」
打ち付けた頭を押さえる間もなく、ネクタイと一緒にワイシャツの衿を掴み上げられる。
「黄瀬くんにはバスケがあるんだから…ッ」
「僕が…ぼくが、こんなにしたいのに…!」
泣いているように、見えた。
頬を涙は伝っていなかったが、馬乗りで黄瀬に跨がるその細い身体を抱き締めてやりたかった。
(もう、一人で頑張らなくていいんだよ)
(虚勢を張らなくて、いいんだ)
「………じゃあ折れよ」
「え………」
彼を抱き締めたいその手を、背中に回すことなく目の前にひらひらと晒す。
衿を掴んだ手を無理矢理解いて、自分の手を握らせた。
「この左手、同じように使えなくしていいって言ってんだよ」
「………ッ」
「お揃いだって言ったじゃないっスか」
カタカタと震える指。
ぐっとやわらかい肉に食い込み、力が篭る。
傍から見たら神に祈るように見えただろう。
本当に、折られる覚悟はあった。
それでも
「……ッ、…〜っ!!」
――――勿論、彼が実行するはずがなかった。
「……だいたい、そんな細っちい身体で俺の腕なんか折れるわけないんスよ」
「……ッ、っ」
「ほら、退いて。飯作るから台所貸して欲しいっス」
「………え?」
きょとんとして、ぱちくりとひとつ瞬きをする。
その表情が今まで人の腕を折ろうとしていたとは考えられないほど、あまりに無防備で。
思わずくすりと笑ってしまった。
「絶対黒子っちも美味しいって言うっスよ」
ばっちりウインクをかますと、彼が以前と同じように小さくため息をついて―――うっすら微笑んでくれた気がした。
「―――美味しいっスか?」
香ばしい匂いにしっかりとした味つけ。
そして難しいとされるぱらぱらとした舌触り。
「黄瀬くん、これ…」
「そうっス!火神っちに作り方、教えて貰ったんだ」
悪態をつきながらも、あっさり作る姿を見せてくれた。
我ながら良い出来だ。
「ほんとにすごいですね…黄瀬くんのコピー」
「火神っちがアメリカに行くまでに制覇してやるっスよ」
「………美味しいです」
ゆっくりと、でもしっかりと食べる姿にほっと息をつく。
「青峰っちからもアイスバー預かってるっスよ」
「……………」
火神も黒子ときちんと連絡を取れず、渡米を決めあぐねといた。
青峰だってちょいちょい誠凛に顔を出しては事情を聞いてくる。
「渡米、来週だって。一緒に空港に見送りに行こうか」
「…………は、い。…………ありがとう、ございます」
スプーンをくわえながらはにかむ彼が愛しくて。
―――思わず頭を引き寄せていた。
「………なんで、キスするんですか?」
「……したくなったから。おれーぐらい、ちょうだいよ」
そう言って俺は毎日レシピを増やし続け、その度に触れるだけの口づけをねだった。
「………グリンピースは嫌いです」
緑色の粒を綺麗に箸で摘み出し、黄瀬の皿に乗せる。
「………前から思ってたけど黒子っち俺には結構我が儘言うよね…?」
「…………そうですか?」
そう言っておどける様は、いつもより少し生き生きとしていた。
わがまま
なんて、いくらでも言って