「わー、ちょーイイ天気っスね!」



どこまでも続く真っ青な空に、痛いくらいに降り注ぐ日の光。

右手で遮りながら太陽を見上げる黄瀬が、誰よりも眩しく見えたのは勿論秘密だ。



「…………これ、忘れてます」

「あ、どもっス」



手渡したのは、シンプルな黒のサングラス。

変装用に着用したそれも彼の溢れんばかりの魅力を陥めることはない。



「俺としては外したいんだけど……仕方ないっスね」



少しだけ淋しそうに肩を竦める黄瀬。

芸能人気取りなんて言われてしまうかもしれないが、実際サングラスをかけた今でも抜きん出た身長とスタイルは充分目立つ。

通り過ぎる女性達がちらちらと頬を染めながら見つめていた。



「俺、とりあえずスパイダーマン乗りたいんスよ!ヒーローすき」

「……お任せします」



黒子自身遊園地が嫌いな訳ではない。

暑いのは苦手だが、人間観察は勿論、待ち時間には本も読めるし、元来薄い存在のため乗り物もすぐ乗れてしまったりする。



「行こ、黒子っち」



優しい笑顔と共に差し出された大きな手。


今回大阪に寄ったのは赤司に会いに来たついでだった。

黄瀬がどうしても遊びたいと騒いだため、予定を一泊早めて此処へ訪れた。



「……はい」



一瞬の躊躇いの後、決意を掌に込めて握り返す綺麗なそれ。


( あ つ い )


空気も、照り返すアスファルトも、人混みも。


それでも


少しだけ汗ばんだ繋がりを離す気にはなれなかった。



今だけは、誰も邪魔することの出来ない、二人だけの世界―――…





「うわー、土砂降りっスね」



昼過ぎになり、現れた雷雲に突然のスコール。

慌てて入ったレストランは同じように行き場を失った人々で溢れ返っていた。



「うわ、光った」

「暫くは止みそうにありませんね」



耳につんのめくような雷鳴。

零れる滴に、髪も服も湿っている。

場所を隅の岩陰に移すと、ふわりと温もりが降ってきた。



「このままだと風邪引いちゃうっスよ」

「どうしたんですか、これ」

「今そこの売店で買ってきたっス。お揃い」



頭に被せられたのはなにやら遊園地とコラボしている漫画のキャラクターがプリントされた色鮮やかなロングタオル。

わしゃわしゃと濡れた髪を優しく拭かれ、黒子は心地好さに目を閉じる。



「俺もしてよ黒子っち」



促されるまま彼の柔らかい金髪を掻き混ぜる。

黄瀬はご主人様に懐く犬のように嬉しそうだった。

いい年して公共の場で何をやっているんだか。



「いた!コンタクト、外れたかも」

「大丈夫ですか――…んッ」



彼はコンタクトをしてただろうか、なんて何も考えずに顔を覗き込めば、うなじをタオルごと引かれた。

合わさる唇。

慌てて彼の肩を押す。



「ちょ、黄瀬くん」

「大丈夫、バスタオルで見えないから」

「だからって――んん…ッ」

「こういう時のミスディレでしょ」



そんな能力じゃないと悪態を付きたくともそのまま流され、舌を軽く絡める。

大阪という誰も知人のいない場所が、気持ちを緩ませてしまうのかもしれない。

ちゅ、ちゅとこめかみに瞼、頬にキスが贈られる。


何より、彼の温もりが雨と空調機で冷えた肌に馴染んだ。



「やばい、ちょー幸せ」

「バレたらどうするんですか…」

「そんなとこもスリリングっスよ」

(馬鹿……)

「……雨が、止んだみたいですね」

「じゃあジュラシックパーク行こ。さっき乗り損ねたから」

「…………はい」



最後に名残惜しげに唇が触れ合い、二人で立ち上がった。




―――次に乗ったジュラシックパークは恐竜に追われるまま滝壺に落ち、盛大に水に濡れるというアトラクション。

先程のスコールの影響で増した水嵩により、いつも以上に水を被る嵌めになった。



「やば、なにこれ!さっきよりもびしょびしょ」

「…………」

「わー黒子っち大丈夫!??」

「……口に入りました」

「ぺっとしてぺっ!」

「タオル……こんなとこでも役立ちましたね」



わしゃわしゃと今度は自分達の身体を各々拭う。

拭きながら彼を見やると、諦めたのか本当に犬みたいに頭を振って水しぶきを飛ばしていた。



「ん? どうかしたっスか?」

「……いえ」

「あ、見惚れてたんスか? 水も滴るいい男っしょ」



そう言って微笑む彼は確かに綺麗で。

これが自分だけに向けられているものだと思うと、柄にもなく恥ずかしくなった。


「自分で言わないで下さい」

「あー!もうパンツの中までぐしょぐしょっスよ!せっかく勝負パンツ穿いてきたのに」

「………ちょっと」



セクハラ発言だ。

さっきから程よく筋肉のついた腹を見せるかのようにTシャツを扇いでいたのはやはり意図されたものだったのか。

彼は本当に自分の魅せ方をよくわかっている。



「……隠してください」

「え」

「後ろ。漏らしたみたいです」

「ひど!!!」



なんて。


これ以上他の人に見せたくなかっただけ。



「……後で黒子っちが脱がしてくれるんでしょ?」



なんてぼそりと耳打ちされた言葉にどこまで自分の気持ちがバレているのか。




―――その後赤司から届いたメール。




『僕のいない大阪は楽しかった?』




相変わらず全てお見通しというか。


赤司に、黄瀬と付き合うことになったと言ったらどうなるだろう。


彼のことだから『ああ今頃言いに来たの?』なんて笑われそうだけれど。


(赤司くん)




バスケを止めた今でも





僕は幸せです







デート日和
どこでも、きみといっしょ



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