「ああ……幸せっス…」




しみじみとした耳元を擽る声はいつもより響き、反響する。


何故こんなことになったのか。


180pを越える体格の良い男と平均男子高校生二人が一緒に小さな家庭用の浴槽に入っている。
―――そんな普通なら有り得ない現状。

後ろで自分を抱えるように湯舟に浸かる男がそもそもの原因で。

黒子がシャワーを浴びてるところに無理矢理乱入し、洗いっこと称してセクハラをしまくった挙句、疲労した身体を湯の中へ引っ張り込んだ。

こちらが鬱々としているのにも関わらず、相手は鼻歌混じりで身体を寄せる。



「………狭いです」



ぼそりと呟けば「そこがいいんじゃないっスか!」と肩口に頭を埋めて鼻を擦りつける。

大きな犬のよう。

そのままうなじに口づけて、ぼそりと彼にしては元気のない声で呟く。




「いいじゃないっスか………誕生日なんだから……」




まるで、祈るように。


はぁ、と小さくため息をついて、彼の厚い胸板に背中を預けた。



「………じゃなかったら今すぐ追い出してます」



彼と肌を触れ合わせるのが嫌いな訳ではない。

ぬるま湯越しに触れる肌はつるつると気持ち好かった。



「黒子っち……!」



彼こと黄瀬涼太は感極まったとばかりに腹に両手を巻き付けて思いっ切り抱き着いた。


(くる、しい…ッ)


いつもなら冷たい拒絶の言葉を浴びせるところだが―――今日だけは許してやろうか。


回された腕に自分の腕を重ね、ふっと頭に浮かんだ疑問を口にする。



「そういえば、僕達付き合って暫くするのにまだ苗字で呼び合ってますね」

「そうっスね……黒子っちにおいては君付けだし」



ぶーと口を尖らせ「俺のは俺なりの愛称なんス」と耳たぶに歯をあてて低い声で囁いた。





「……………テツヤ……」


「ッ?!」




―――かああああああッ




自分でも予想外だった。




一気に血液が頭に上り、紅く染まる頬。



(なんで、こんな)



――――自分が抑えられない。





「『テツヤ』って赤司っちのイメージが強いっていうか。ほんとは『テツ』って呼びたいけど青峰っちぽいし…って黒子っち?あれ、そんな震えるほど嫌…?」



なんてこちらの様子に気づくことなくいつもと変わらない彼。

無自覚な不意打ちとは全く困ったものだ。



「………涼太のくせに、生意気」

「ッんぐ」



くるりと振り返って体勢を入れ替え、唇を押し付ける。

ぴしゃん。

水が撥ねてゆっくり顔を離すと、モデルと称賛される整った顔が真っ赤になってこちらを見つめていた。

濡れた髪は張り付き、垂れる水滴は彼の逞しい身体のラインを辿り、その先を目で追う。



「……さっき抜いてあげたのに、また勃ってますね」



くちゅり。そのまま上から再び硬くなったソレを優しく握り込む。

彼がびくんと震えると共に揺れて溢れる湯。



「だ、だって黒子っちが、名前……」

「せっかくの誕生日なんだから、一緒にお風呂なんて小学生みたいなこと言わないでもっとすごいことねだればいいんじゃないですか?」

「すごい、こと…?」

「例えば―――…」




くすりと微笑んで耳打ちしようとすると、ばしゃん、勢いよく湯が飛び散る。

前からこれでもかと切羽詰まったように力強く抱き締められた。




「黒子っち…!黒子っちを、ください……ッ」




(ああ)




―――彼をこんなにも愛おしいと思うようになったのはいつからだろう。




「…………テツヤ、でしょう?」




そう軽く微笑んで、両手で挟んだ顔を寄せる。





「全部、あげますよ―…」





再度深く唇を合わせた。











君に捧ぐ
僕の身体?



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