丹念に身体を洗い、普段は使わないドライヤーでゆっくりと髪を乾かした。

だから、いつもより時間が多くかかったことは認めよう。


しかし



「……………なんで寝てるんですか、この人」



呆然。

恋人は端正な顔を崩すことなく、口を少しだけ開くという可愛いらしいオプション付きでぐっすりと夢の世界に落ちていた。

これから身体を合わせようとする人間を前に、よくもまぁこんな気持ち良さそうに眠れたものだ。

確かに少しぐらい焦らしてやろうと長めにシャワーを浴びたのは事実だが。


(寝るなよ)


小さくため息をつき、冷蔵庫から拝借したミネラルウォーターで喉を潤す間も彼は目覚めることはなかった。


バスケに、副業のモデル。
自分に会う時間など殆ど取るのも難しいはずなのにこうして時間を作ってくれる。


黒子だって会えるのをとても楽しみにしていた。



「…………ん、ぅ」



好奇心で僅かに開いた唇の隙間に人差し指を差し入れると、赤ん坊が甘えるように吸い付かれる。

ぞくり。

久しぶりなのもあって身体は快感に従順だ。


最近はバスケに集中しているものの、街に出れば沢山の女性に声をかけられるし、海常の先輩とも結構親しくしているとか。


それでも



ここで眠る彼は、僕のもの。



バスローブの中に手を伸ばせば、既に勃ち上がっている自身の一物。

性欲は薄い方だったのに、目の前の男にあれやこれやと開発された。


腹立しいのか、興奮しているのか。

そのまま右手で弱い部分を擦りあげる。

自慰ですら彼をオカズに出来るようになってしまった。



「……ッ、ん……ッ……」



どろり。

気がつけば、遠慮なく彼の顔に白濁を放っていた。

きめ細やかな肌を滑り、鎖骨の窪まりへ。
長い睫毛の上にまで乗っかっている。



「…ん、ふ…え……?」



流石に違和感を感じたのか、うっすらと開いた寝ぼけ眼がこちらを見つめた。

ぱち、ぱち。

視線がまじまじと合うと、しなやかな身体が蛙のように飛び跳ねた。



「うわぁ?!黒子っち?!!」

「……おはようございます」

「おはようって…あれ。俺寝ちゃって…うお、何スかこれ…?」


(しまった)


始末し損ねた精液を顔から拭い取る黄瀬。

起きたら顔が白濁塗れとは、そりゃ驚きもするだろう。



「すいません。ちょっとむらっとして。それ、僕のです」

「え!黒子っちの…?」



さすがに申し訳ないと思って、サイドボードのティッシュを手に取る。

しかし予想に反し、彼はトマトみたいにかぁぁと頬を朱く染めた。



「すいません。気持ち悪かったですか」

「いや、え、顔射とか初めてで。く、黒子っちが俺に欲情したってことっスよね?」

「はぁ。……まぁ」

「やっべぇぇぇえ。なにこれ、ちょううれしい」



彼は両手で顔を覆い、さらに赤くなった顔を隠す。

いや、ひかれなくてよかったが、まさか喜ばれるなんて。むしろこちらが戸惑ってしまう。

彼は恍惚と自分の手に付着した粘液に舌を這わせた。



「顔射って独占欲らしいっスよ。綺麗なものを自分の欲望で汚すのがなんとも視覚的に快感、とか」

「……そうなんですか」



“独占欲”


言葉にされると、さっきの妙な気持ちにぴたりと当て嵌まる気がした。

一人で納得していると、とんでもない爆弾発言が飛び込んでくる。



「俺も黒子っちにこの前やったからわかるんス」

「………は?」

「いや、この前黒子っちが一回で寝ちゃうから我慢出来なくて…こう、ほっぺたにぐりぐり…」



―――自分より酷いじゃないか。

ぐつぐつと腹の底から沸き上がってくるのは、羞恥か、怒りか。



「………次やったら殺します」

「え!なんで?!黒子っちだって…」

「僕はいいけど黄瀬君はダメです」

「なにそれ?!」




涙目の彼を押し倒し、口づけて―――よし、なかったことにしようか。






照れ隠し
考えることは同じだよ




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