「ちょ、やめて下さい。何するんですか」




帰り際、拉致されるように連れて来られたのは学校とは反対側のホテル街。

その中の一つに迷うことなく引っ張り込まれると、彼は慣れた様子で宿泊の手続きを行った。


(制服なのに…)


彼は言葉を発しない。掴まれた腕だけが酷く痛んだ。

その後もされるがまま。

ベッドに転がされ、抗議の声をあげるもご丁寧に手首は彼の黒いタイで縛られる。



「何ってナニ?」



彼は何が可笑しいのか軽薄な笑みを浮かべてワイシャツを脱いだ。

さすがモデルというべきか。
それだけで一枚の絵になりそうな姿に思わず見とれてしまう。
バランスよくついた筋肉も彼の魅力を引き立たせる一つだ。

しかし彼は会ったときからきちんと目を合わせようとしない。

自分がこれから何をしようとしてるか、向き合う度胸もないくせに。


(ちゃんと、見ろよ)


それだけがただ腹立たしかった。



「………怒りますよ」

「いーじゃん。こうもしないと黒子っちは俺の本気なんてわかってくれないんだから」



僕の顔を真正面から見れない彼は、唇は避けて首筋へと口づけを落とす。

そのままぷちりぷちりと釦を外して現れた肌を、壊れ物を扱うかのように優しく撫でた。



「悪いことしてるときってすごい疑心暗鬼なんスよ。バレてないのかハラハラして。でもいざ何も言われないとバレてるのに黙ってるだけじゃないか、って疑ったりして」

「んッ」



かぷり。乳首をやんわりと噛まれて思わず声が漏れた。

彼はその反応を見逃さず、見せつけるように赤い舌を突起に絡める。



「まさかヤってる最中に電話かけられるとは思わなかった」




『よ、テツ』

『……何かご用ですか』

『青峰っち、何し…て…ッ』

『またお前の犬が来てんぜ。あんあんうるせぇからから早く引き取ってくれ』

『………黄瀬君、そこにいるんですか』

『ああ。声聞かせてやろうか?』

『……悪趣味ですね』





「……前から知ってたんスか」

「…………」



沈黙は肯定を示していると彼は判断したようだ。



「馬鹿みてー…」


がしがしと金色の綺麗な髪をかき上げると、荒々しく自身のものを取り出し避妊具を装着する。

そんなところが律儀だとぼんやり思った。

彼は前座を諦めたようで、引ったくるようにベルトを剥ぎ捨て、僕のズボンを下ろす。

これは血を見そうだと頭の片隅で思ったが、何も言わずに彼を見つめていた。



「こんな簡単に手に入るのに、なんで俺今までやらなかったんだろ」



くしゃりと無理矢理作った笑顔。



(泣くなら、泣けばいいのに)



どうしてこうなってしまったのか。

彼にこんな表情をさせるためではなかったのは確かだ。



始めは、小さく些細な歪み。




『青峰っち!1on1しないっスか』

『ああ?やだよ、お前俺に勝てたことねーじゃん』

『そんなこと言わないで!俺は青峰っちとやるのが一番楽しいんスから』




歪みはどんどん広がり、捻れていく。



(青峰くんの匂いがする……)



他人に抱かれた身体でそのまま僕を抱きにくるとか、馬鹿じゃないのか。



(僕に好き好き言うのは彼みたいになりたいからでしょう?)



君はずっと俺を通して彼を見ているだけ。




「…………貴方なんて、嫌いだ」





それはどちらが呟いたのか。





(全部じゃないならいらない)





君なんて、いらない








セツナレンサ
悪循環は続く



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