「――…ッ、は…」

「ぁ、あ、アァ…ッ」



中で濁液が爆ぜる感覚にシーツを力一杯握り締めた。

互いに快感の余韻に浸りながら荒い息を収束させていく。



「…ん、」



臨也の息が整うと、ずるりと中の異物が抜け、その感覚にまた俺は声を漏らした。

普段から暑苦しい格好をしててもあまり汗をかく姿など見たことがない。

そんな彼がうっすらとかいた汗を拭い、ゴムを外してごみ箱に投げた。



「…………」



服も上着しか脱いでいないし、ズボンを上げればいつもと変わらないシンプルな姿。

こちらはというとまっ裸で自分が今しがた達した精液やらローションで霰もない姿にため息が出た。



「……臨也さんっていつもゴムしますよね」

「ああ」



ベッドの下に転がった下着に手を伸ばしながらティッシュで患部を拭う。

ゴムをつけてくれれば後で掻き出さずに済むし、腹を下す心配もない。

ありがたいのだけれど、先程までの淫猥な雰囲気を彼だけすぐに剥がし取ったみたいで少しだけ淋しくもあった。



「だって肛門だよ?きたないじゃん」

「な…ッ」



そんな情緒深さとかを打ち破ったこの人の言葉。



「元々そういう用途に使わないでしょ。排泄器官だし」



(き、気にしていたことを…!)


馬鹿だった!臨也さんが俺のためを考えてゴムしてくれてたなんて思ってた俺が馬鹿だった!!

意外といい人かもなんて思っていた一分前の自分を殴り倒してやりいたい。



「失礼な…ッ、シャワー浴びたときにちゃんと洗ってますよ!」



一応マナーだし引き裂かれるのも困るので、すんげぇ恥ずかしいけど自分で解して入れやすくしている。

それをこんな風に言われるなんて。



「ほんと非生産行為だよねぇ。俺も君も別に女にモテない訳じゃないのに。なんでだろうね」

「…ッ、ばか!!!!」



思わず目の前の枕を投げつけていた。

笑う膝を叱咤して服をかき集める。



「………帰ります」

「どうしたの、急に。シャワーぐらい浴びてけば?」

「帰ります…ッ」



臨也はそれ以上何も言わなかった。

これじゃあほんとに行為をするために来たみたいだ。


エレベーターを降りてエントランスを出ると、何故かタクシーが一台止まっていて。

何もかもお見通しかよと不愉快になったが、このまま電車に乗るわけにもいかなかったので大人しく従った。

車窓越しに曇天を眺めながら物思いに耽る。

そういえばフェラだって俺はしたことあるけどされたことは一回もない。

考えれば考えるほど泥沼にはまって凹んでいく。



「お客さん、――…でいいんだよね?」

「………はい」



重いため息だけが漏れた。



□□□□□




新宿に足を運ぶことが無くなって一ヶ月。

自室で沙樹に背中を預けながら宛ても無く携帯電話をぽちぽち弄る。



「………沙樹、暇」

「最近は臨也さんのとこ行かないんだね?喧嘩したの?」

「別に。俺が行かなくてもお前のオトモダチとよろしくやってるんじゃね?」

「……怒るよ、正臣。臨也さんは私達をそういう意味で見ないの。それは変えようのない事実。だから信頼してるし」


(じゃあ、俺は?)


沙樹には臨也との関係は知られているはずだが、喉まで出た疑問は口に出ることはなかった。

それでも全てお見通しにみたいに沙樹は優しく微笑んだ。



「それにね」



こそりと擽るような耳打ち。



「臨也さんてセックスあんまり好きじゃないみたい。ほら衛生的にというか、潔癖なところあるから」

「………ッ」




ぱちくり、ぱちくり。


思わず大きな瞬きを二つ。


(なんだよ)


それを聞いただけで少しときめいちゃったりして安上がりな男だなぁ、俺。


なんて考えながら沙樹に別れを告げて、いそいそと新宿に足を向けるのであった。








あまのじゃく
伝わりにくいよ!




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