「え、ちょっ、ま。…えぇ?!」
思わず二度見してしまった。
何なんだこの状況。
屋上で。天気は気持ちイイくらいの快晴で。
黒子っちが俺の上に乗っている。
「え、あれぇ?」
「……うるさいです」
「ん、ぐ」
唇を黒子っちのそれで塞がれて赤面。
気づけば背中が固いコンクリートに当たる。
ちろちろと舌を差し入れされながら彼は徐々に俺を押し倒して行った。
あれ、おかしい。おかしいぞこの状況。
「く、黒子っちが上なんスか??!」
「当たり前じゃないですか」
違和感の原因はあっさり肯定。
わ、わーい、初めてで騎乗位とかさすが黒子っち。
そんな微かな淡い期待をいつもの抑揚のない声が打ち消す。
「男に掘られるなんて冗談じゃありません」
「………ッ」
疑問が確信に変わる。
血の気が引いた。
「じゃ、じゃあもしかして俺が入れられる…方…?」
「黄瀬くんがセックスしたいって言ったんじゃないですか」
べろり。浮き出た鎖骨を舐められてうっかり流されそうになっている自分を叱咤した。
え、だってやっぱりおかしいよ。
この体格差だよ?普通に考えて俺が入れる方じゃん。
「………やめ、て…」
「…嫌ですか?」
「………ッ」
こくりと震える身体でかぶりを振る。
(情けねぇ…)
なんで俺こんなに怖じけづいてるんだよ。
「じゃあ、別れます?」
「……は…?」
「性癖の不一致です。致命的かと」
彼は華奢な身体をするりと躊躇なく離して立ち上がった。
「なんだよ、それ…」
こんなに好きなのに。
好きで好きで好き過ぎて、何回も告白してやっと受け入れてもらえたのに。
そんなにもあっさり、別れを切り出せるものなのか。
「ま、待って…ッ」
行かないで。
置いてかないで。
そんな簡単に俺を捨てないで。
「…考え、させて、下さい…ッ」
必死で叫んで掴んだのは、彼のバスケをやるにはやたら細い手首だった。
怖くて彼の顔を見ることが出来ない。
はぁ、と小さな溜息が聞こえて情けなく身体がびくついた。
「泣かないで下さいよ。僕が悪いみたいだ」
するりと優しく頬を撫でられた。
それだけでやけに心が穏やかになっている自分がいる。
「まぁ…僕も少し虐め過ぎましたが」
「黄瀬くんは当たり前のように僕に猫をやらせる気みたいだったので腹が立ったんです」
膝をついている俺に視線を合わせるべく屈んだ黒子っちは、俺の唇に人差し指を当てる。
「僕だって好きな人を抱きたいと思う男なのに」
「………ッ、」
「別に。セックスだけが愛情表現じゃないでしょう?……まぁ、君が覚悟出来たならいつでも言って下さい」
いつも無表情の彼が少しだけ口端をあげて妖艶に微笑むものだから思わず涙が滲んだ。
目の前の恋人に陥落する日は、遠くないのかもしれなかった。
羊の皮を被った…
てんし?