桜咲く季節。
雪が溶け、草花が芽吹き、春の訪れを告げる心地好い風が吹き抜ける。
新たな出会いに浮足立つ学生達の中、ローファーをかつかつと鳴らして颯爽と歩く美少女の心は憂鬱だ。
(なんで私がこんな格好を…っ)
誰もが思わず振り返ってしまうような美少女その人は、残念ながら身も心も正真正銘“男”である。
男であるクラピカが今や上下紺色のセーラー服を身に纏い、真っ赤なスカーフを胸元に。
高等学校に通うことになっていた。
理由は先週の見合いに遡る。
『いいよ、男でも』
セクハラな見合い相手に「自分は男」と告げるも、彼は全く動じずそう言い放った。
「なんでノストラードなんかに?俺のところに来ればもっと給料弾むのに」
嘘をついてもよかったが、偽証はクラピカの中で最も恥ずべきこと。
黙秘、も相手をかわす方法の一つだが財閥ルシルフル家の情報網は惜しい。
そしてクラピカは自分はある程度人を見る目があると思っていた。
「…なるほど。クルタ家ね……」
事情を聞いたクロロは口元に手を当てて何か思い出しているようだった。
「…何か事件について知っているのか?」
「…うーん、つまり瞳を得るためにノストラードの言うことは絶対。君は俺との見合いを成功させなければならない、と」
「…………」
質問を上手く交わされたことにクラピカは気づいていなかった。
クロロの言葉は確かに正しく、クロロを味方につけないことには家族の瞳探しは困窮する。
弱みは見せたくないが、クラピカはクロロの要求を呑まざるを得ない。
それを理解っていたようにクロロはにこりと笑ってクラピカに一つの提案を持ち掛けた。
『この縁談、ご破算にしたくなかったら一緒に学校きてよ』
「…だからなんで女の制服なんだ…ッ」
独特の薬品香る室内。
初めて会ったときと異なりスーツではなく真っ白な白衣に黒縁の眼鏡をかけたクロロはどこか年齢相応に見えた。
入学式が終わり、クラスの挨拶、委員決めの後クラピカが乗り込んだのは保健室。
クロロ・ルシルフルは保健医だった。
「だってノストラードには女と偽って俺に近づけって言われてるんだろ?命令通りじゃないか」
彼はまだ湯気の立つ珈琲を口に含みながら静かに話す。冷静沈着はクラピカを表す言葉とされていたが、彼を前にすると自分が子供になった気分だ。
「だからって…」
「君もまだ17。本来なら高校で授業を受けていてもおかしくない」
「………」
だって。
そんなことをしている時間なんてなかった。
勉強だって独学で人には負けないくらい知識を得たつもりだ。
今更学校になど興味はない
(はずなのに………)
クロロは黙ってしまったクラピカにくすりと微笑んで、目の前まで歩んだ。
「それに…すごく似合ってるよ」
クラピカのスカーフを手に取り、気障ったらしく口づけを送る。
「………ッ」
その仕種が何故か様になっていて
思わず顔を赤らめてしまった。
「………どころでさ」
「?」
「中はトランクスなの?」
ぺらり。
紺色のスカートが宙を舞う。
「ふざけるなッッ」
“これ”さえなければ!!!!
二度目の右ストレートがクロロの頬に決まった。
なんちゃって学パロ
セーラー服着せたかっただけ