「初めまして」
「…はじめ、まして…」
爽やかに微笑まれて思わず頬の筋肉が引き攣った。
絹で織った艶やかな着物に、ほんのりと施した化粧。
結った髪には簪、唇には真っ赤な紅をつけて。
外の庭では風情な鹿威しが音をたてる荘厳な料亭で、一体自分は何をしているんだろう。
――端的に言えば、“お見合い”をしているのだが。
目の前には稀に見ぬ大富豪の御曹司、かつ顔が俳優のように整っている男。
――でも決してときめくことはない。
理由は簡単。残念ながらクラピカ自身も、男だから。
同じ物がついている人間にときめくもくそもない。
勿論男のクラピカが同じ性別の男と見合いをするには訳がある。
“目的のためなら手段は選ばない”
クルタ一家大虐殺は五年前におきた出来事とはいえ、未だ悪質で残忍な事件として人々の記憶に刻まれている。
犯人は未だ捕まらず。手掛かりすら残していない。
クラピカはその唯一の生き残りだ。
クルタ一家の瞳は綺麗な緋色をしており、臓器売買では最高ランク。
クラピカの家族の亡き殻は全ての瞳が奪い去られていた。
その無念、計り知れず。
クラピカは瞳の奪還と犯人への復讐のためにこの五年全てを費やしてきた。
この見合いも、その一つ。
依頼主ノストラードは臓器コレクターであり、緋の目を所有しているとの噂が流れている。
近づけば素性も確かめられずに簡単に雇われた。
その依頼内容は財閥ルシルフル家にコネを作るため、その子息との縁談をまとめること。
自分の娘は最後の切り札だそうだ。
男とバレた時には一体どうするのか。考えたくもないが。
それでも逆らえずに女の格好をしているのは、クラピカにそれだけの覚悟と信念があったから。
(目的のためなら、こんな姿、訳無いこと)
後は若いお二人で、なんてありきたりの台詞で綺麗に整えられた庭を男と二人で歩く。
博識だし、見目も悪くない。
それなりの礼儀作法は弁えているようだし、これに圧倒的な財力が加わるのだから申し分ないだろう。
しかしノストラードのような人間がわんさか群がってくるのだから御曹司の息子も楽ではないな、なんて他人事のように考えて相手の会話を受け流していたら、いつの間にか男の顔が目の前に近づいていた。
「…なん、ですか?」
「身長高いね。170はある?」
「…背の高い女は嫌いですか?」
「いいや。君は今まで会った女性の中で一番綺麗だ」
歯の浮くような台詞。だが、何故か不快ではなかった。
少年のような澄んだ黒い瞳。
クラピカは紅い瞳を隠すために普段はカラーコンタクトを使用している。
クロロ、と名乗っていた青年が近づくとミント系のフレグランスが香った。
彼の右手がクラピカへとゆっくり伸びてくる。
その手はそのまま締めた帯のすぐ上、クラピカの胸部に着物越しに置かれた。
「……胸は、小さいね」
「っッ?!」
ばこぉッ
別に男なのだから女のように胸の膨らみがあるわけではないけれど。
反射的に目の前の男の顔面に右ストレートをかましていた。
「……ったァ。いいじゃん触るくらい。けち」
(この男は…ッ)
もう一発ぶん殴ってやろうかと思って胸倉を掴んだが、ふっと閃いてそのままネクタイだけを引いて男を化粧室へと連れていく。
「わぉ。大胆だね」
(馬鹿が)
的外れなことを宣う彼の手を引いて、もう一度自分の胸にあててみせた。
「私は、男だ」
なんちゃって学パロ
まだがの字も出てないよ