旅団ではない彼は至って普通の青年だった。

寝て起きて食事をして読書をする。それを繰り返す毎日。

むしろ食事を忘れて一日中本を読み耽っているものだから、クラピカの方が心配になって夕食に誘うくらいだ。


あとは――…



「お帰り。クラピカ」

「…ッ、やめろ!」



額に軽いをキスを贈られ、それを振り切る。

毎日出掛ける時と帰ってくる際に行われる儀式だ。



「…お前は毎日毎日飽きもせず…ッ」

「同棲中の二人はするものじゃないのか?」

「間違った知識だ!」

「知人から聞いたんだが……」



(全く、どこの友人なんだか)


何度殴っても諦めないものだからクラピカの方が折れて渋々受け入れている。



「お前は一体今までどんな生活を送ってたんだ」

「?普通だと思うけど」

「食べながら話すな!汁が零れている!!」



イライラ。イライラ。

几帳面な性格のクラピカには耐え切れるはずもなく。


それでも一緒に寝食を共にするのは


彼と過ごす空間が居心地が良い、なんて。



(認めたくない)



けれど、家族がいない日々を送ってたクラピカにとって『お帰り』という言葉は5年ぶり。

奪った相手から与えられるなんて、なんて皮肉なことなのか。



洗濯も出来ない飯も作れない



(こんな奴に私の一族は――…)



思考が一点に行き着いて一気に気持ちが暗くなる。

煮付けの魚を咀嚼しながらクラピカは気分を上げるためにクロロに会話を持ち掛けることにした。



「貴様、緋の目の行方は本当に知らないのか?」

「…リストは売ると共に焼き捨てたからな。クラピカが恋人になってくれるなら調べ直さないこともないけど」

「ふざけるな…ッ」

「ふざけてなんかいないさ」



怒りを顕にするクラピカの紅い瞳をクロロは至って真面目な表情で見返す。

それがクラピカの怒りを更に助長させた。



「お前は殺しを一体何だと思っているんだ」

「お前の友人にも聞かれたな」

「答えろ!」

「何も。お前らが生きるために呼吸をするのと何ら変わらない」



ずずず。クロロは付け合わせの味噌汁を音をたてて美味そうに啜る。


「ああ、でも。お前のこの情熱的な瞳を向けられるために、クルタ族を殺したのかもしれないな」

「…ッッ」



会話しても無駄だ。


価値観が


何より今まで歩んできた道が違い過ぎる。


脱力したクラピカをクロロはいつも通りベッドへと誘った。




「セックスも…お前は何も感じないのか…」



ベッドに身を任せ、右腕で紅く染まった瞳を隠しながらクラピカが問う。



「まぁ、な。でもクラピカとするのが一番気持ち良い」

「!!」



むくり。

それを聞いたクラピカは突然に勢いよく上半身を上げた。



「どうした?」



不思議そうな顔をするクロロを押し退け、乱れた服を整える。

そして目の前の男を見据えてきっぱりと言い放った。



「私達は付き合っていないのだから、セックスなんてする必要ないだろう」



「……え」



目をぱちくりとさせるクロロにクラピカはほんの僅かだけ口元に笑みを浮かべた。



ささやかな嫌がらせであり、仕返し。








間違った恋人の作り方
道程はまだまだ遠く


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