赤、青、黄。
色鮮やかなネオン街の眩しさにクラピカは顔をしかめる。
その路地裏の一角たる建物に、二人はいた。
「…こんなところ、初めてだ」
「初めて?行為が、それとも場所が?」
「…………」
真顔で聞いてくるクロロにとてもではないが「どちらも」とクラピカは言えなかった。
(早まったか…)
単純に。
酒の次はセックスをしないかと誘われた。
流されたと言うべきか自暴自棄になったというべきか。
知識だけあっても、という言葉に僅かながらもプライドを擽られた。
今となってはそれすらクロロの思惑通りだったかもしれない。
「……どちらでもいいだろう」
最後の強がり、虚勢。
目にも毒々しい配色だが、室内はアダルトグッズ販売機を除けばたいして普通のビジネスホテルと変わらなかった。
「俺も、わざわざ部屋をとるのは初めてだよ」
クロロはくすりと笑ってまだ部屋に足を踏み入れないクラピカへと手を差し延べる。
「……ッ」
「…怖じけづいた?」
挑発、だとわかっているのに。
「逃げるなら今だ。今ならまだ逃がしてあげる」
クロロの瞳に宿る剣呑な光。まるで獲物の隙を見逃さまいとする肉食獣のようだった。
その本気を悟ったのか、クラピカは怖じまいと相手を睨みつけながらもその手をゆっくりと取った。
「クラピカは俺といると初めてだらけだね」
その言葉と共に繋いだ手を強く引かれて、室内に引きずり込まれる。
「ちょ、ッ、ま…んっ…」
濃厚な口づけを交わしなから衣服がするすると脱がされる。
これが経験の差というものだろうか。
クラピカは抵抗らしい抵抗もままならないままベッドに押し倒された。
「ぁ、…ッ、ふ…」
注ぎ込まれる唾液を飲み下し、それでも溢れたそれを追うようにクロロの唇が下へ降りていく。
「あ、ッ」
辿り着いたのは顕になった白い首筋。
人間の急所の一つであるそこを甘く吸われてクラピカはぴくりと震えた。
「やっぱり、やめようか?」
彼は何故自分に逃げ道を残すのだろう。
そういえばシャワーを浴びてないけどいいのかな、なんてぼんやり考えながらクラピカはクロロの首へと自ら腕を回した。
「…構わん、続けろ…」
「……わかった」
了解と共に再開される遊戯。
右より左の乳首の方が舐められると余計感じるとか。
他人の手に扱かれるとこんなに気持ちがよいとか。
知りたくない情報ばかりが頭を占めては消えてゆく。
ふわふわと夢見心地な。
そんな浮遊感を破ったのは後腔に走った激痛だった。
「…っッ!?」
おかしい。
通常なら排泄行為に使われる部位をえぐられている。
「いたい?」
「…ッア、っ」
まだ指だけだろうに筋肉を押し広げ、皮膚が破ける感覚。
唇を噛み締めながらぶんぶんと素直に首を縦に振った。
「……セックスなんて、こんなものだよ」
(そうか)
初めてのセックスなんてこんなものなのか。
引き裂かれるような痛みに堪える中、口づけだけが甘やかすように優しい。
それだけが救いのように激しい突き上げに自然とクロロの身体に抱き着いた。
弾みでクロロの額を覆っていたバンダナが取れる。
外では雷鳴が響いて
差し込んだ稲光に見知った入れ墨が暗闇に映った。
ナカで白濁が弾ける。
クラピカの瞳が緋色に染まった――…
真夜中のハートブレイク