前回に引き続き、今度は飲み屋に誘ったところ、クラピカは無言のまま頷いた。



「どうしたの?飲み屋に来て飲まないなんて無粋だよ」



小洒落たバーではなく仕事帰りのサラリーマンがたむろする騒がしい居酒屋の隅に二人。

クロロはジョッキビールだが、烏龍茶を頼もうとするクラピカにさりげなくカシオレを注文した。



「いや、私は…」

「飲めない訳じゃないんだろ?」

「……飲まれるのが嫌いなだけだ」

「じゃ、乾杯」



カチンとグラスが重なる音と共に二人だけの宴が始まる。

クラピカは初めて酒を飲む女のように両手でグラスを持って中身を確かめるように少しだけ口をつけた。



「……疲れてるね。何かあった?」



肴をつまみながら暫くハンター情勢や好み本の話をした後、クロロは問い掛ける。

クロロのペースに呑まれたのか、クラピカはかなりの量の酒を煽り、泥酔とまでは行かないが、瞳が虚になっていた。

だからなのか、彼は普段なら絶対話さないような弱音をぽつりぽつりと吐露し始めるのであった。


「振り出しに…戻って、しまって……」

「…………」



からん、とグラスの氷が崩れる。

陶器のような白く滑らかな肌に差す赤みは扇情的だ。

無意識に手を伸ばすと、クロロの手が冷たかったのかクラピカは猫のように頬を擦り寄せた。



「いや、むしろ前より悪化……どうするか…考えないといけないのに」

「頼れる友達はいないの?」

「彼らは彼らで目標を持って、邁進している。それを邪魔することなど出来ない」



はっきりした口調


仲間か、復讐か


まだこいつは選び切れずにいる



「なんで、俺にそれを?」

「……正反対だから。貴方は…友好的に見えて何処かで第三者としての視点を崩さない…。冷静で、冷たくて…でも人を魅き付ける…なんだろう…憧れているのかもしれない」

「買い被りだよ。でも、ありがとう」



頬にキスを贈ると、クラピカは大きな猫目をぱちくりさせた。



「じゃあ一つだけ年上からのアドバイス」

「?」

「……選択肢を二つに絞らないこと。それしかないと思い込まないこと」

「……それが、アドバイス?」

「君は若いんだ。いくらでも可能性はある」

「…貴方も、若そうだが」


くすり、とクラピカが微笑んで、クロロも笑った。



「俺?俺は42だよ」

「…え」



あまりにも平然と言うものだから思わず信じてしまった。

(そんな表情も出来るんだ)



「はは、嘘嘘。秘密。まぁ……『外見には惑わされないこと』だね」

「…………」



その言葉に僅かにクラピカが反応するのをクロロは見過ごさなかった。



「………それも、アドバイス?」

「ああ。人の受け売りだけど」

「……覚えておく」




(なんか、野生の小動物を飼い馴らしてる気分だ)



可愛がって


甘やかして



(どん底につき落としてやりたい)




相反するこの感情をどう処理しようか。







宵の内のアルコールブレイク


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