「…ッァ、ふ…ッ…くっ、…」

「……ッ、は…」



互いに言葉を発することなく、荒い息遣いと粘着質な水音だけが部屋に響く。

監禁されてから何度も行われているこの行為は、屈辱と快感だけをクラピカに刻みつけ、ひたすらそれに堪え続けるというある種儀式のようになっていた。



“恋人になってほしい”



そう告げられてからこちとら調子を崩されてばかりだ。


舌を噛むことも出来ず

鎖に繋がれた腕を引きちぎることも出来ず


(私はいったい何をやってるんだ――)


世に言うセックスと呼ばれるこの行為も、クロロは仕事をこなすかのように単調で、甘い空気は一切ない。


閉じていた緋色の瞳をうっすらと開けて自分を犯す男の表情を仰ぎ見ると、唇が目尻を掠めた。



「鎖をはず、せ…」

「それは出来ないな。逃げるだろ?」



殺される、という選択肢は彼の頭にないのか。

相変わらずの何を考えてるのかわからない無表情っぷりがクラピカの神経を逆撫でする。



「では、なぜ私を犯す…ッ…?」

「恋人同士は肌を重ねるものだと文献で読んだ」

「恋人など…、世迷言を」



この男は本気でクラピカを恋人にしたいと考えているらしい。

クラピカを抱く以外はほぼ読書に耽っており、睡眠を取っているところを見たことがない。
恐らくクラピカが行為後、憔悴して意識を失っている際に眠っているのだろうが、全く飽きもせず、と悪態付きたくなった。



「クルタの瞳」

「…?」

「緋色に染まった死後の眼球のみが貴重とされていたが、なぜかお前のは……生きている方が綺麗だな」



優しく頬に触れる指先が


クラピカの全てを奪ったというのに


(なぜ私は拒めないのか)


一滴の涙が頬を伝ってクラピカは唇を噛んだ。



「………外せ」

「………」

「…逃げはしない」



そう低く呟くと、あっさり手錠は外された。



「飯でも食うか?数日何も腹に入れてないだろう」

「……ああ」



シーツを纏って立ち上がる。湯浴みしたい。

しかし身体は意思に反して衰弱と疲労でがくりと崩れ落ち、倒れる寸前でクロロが支えた。




「大丈夫か?」

「…問題ない」



クラピカの腕を自身の肩に回し、浴室へと連れていく。

クラピカは何も言わずに従った。



「………俺を殺さなくていいのか?」

「どうせ今の私ではお前を殺せない」



(それに、私自身この気持ちが何なのか見極める必要がある)



怒りというよりは無に近い。


(諦め、なのか?)


激情は未だ腹の中を渦巻いているというのに。



「とりあえず夕飯用意しておく」

「……ああ、先に言っておくが」



「私はお前の恋人になったつもりは毛頭ないからな」

「………肝に命じておこう」






そうして二人の奇妙な共同生活は始まる。









間違った恋人の作り方
きどうしゅうせいちゅう


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