「貴様、いつまでそこにいるんだ?!」



我慢の限界だと謂わんばかりにホテルのエントランスから出てきたのは、鎖を纏った金髪緋眼の美少年。

噴水の縁に腰を下ろしていた青年は彼の登場と共に、本に向けていた視線を上げて優しく微笑んだ。



「やっと出てきてくれた」

「ふざけるな。これはなんのつもりだ…ッ」



突如として現れた青年がホテルの前から動かないと苦情が来たのが三日前。

その男が一族の敵である幻影旅団のリーダー、クロロだとクラピカはすぐに気がついた。

除念は済んだはずだが、仲間は連れず一人きり。クラピカの宿泊先を事あるごとに訪れる。

不可解なことに自分に報復に来た訳ではないようで、毎日部屋に届けられるは真っ赤な薔薇の花だった。


男はというと、一度もその場を動くことはない。


季節は白雪舞う師走だというのに。



「こんなこといつまで続けるつもりだと聞いている!」



贈られた薔薇の花束を地面に投げ捨てると、クロロは少しだけ困った顔をして落ちた一本を拾った。



「……君に似合うと思ったのにな」



赤い薔薇の花言葉は


(愛情・情熱・熱烈な恋)


愛と美と純潔の象徴でもある。



パタンと黒いカバーの洋書を閉じ、薔薇と共に伸ばされた指先がクラピカの白い頬に触れるか否や。

クラピカはそれを力強く叩き落とし、鎖の先を突き付けた。



「どんなに許しを請われようとも、私が貴様を許すことなど未来永劫ありえない!」

「怒った君も綺麗だ」



どこまでも優しい笑みを零すクロロはクラピカの腰に手を回し、自身に引き寄せる。

彼の身体は冷え切り、触れる指先は氷のように冷たい。



「はなせ…ッ、私に触れることを許した覚えはない!虫唾が走る」

「でも殴らなくなった」



ばこっ



クラピカの渾身の右ストレートがクロロの頬に決まった。



「ふざけるな!!」

「ッ、相変わらず強烈なパンチだな」



それでも宝物を抱くかのように優しく膝の上に乗せられ、クラピカは戸惑いながらも浮いた足をばたつかせた。


「貴様は何がしたい…?一族を皆殺しにされたんだぞ?それを、恨みだけで生きてきた私を、」



寝不足も相まってか、まとまらない思考がクラピカを揺るがす。

(目の前の、自分を慈しむように見つめるこの男は誰だ?)



「初めは何も持っていなかった。いつも奪う側だった俺が初めて奪われたんだ」



刺で傷ついた掌に握られた花を再度クラピカの目の前に持ってゆく。



「愛したい」

「君を愛したいんだ」



(そんなこと)



「私は、貴様を…ッ」

「いいよ、許さなくても」

「―…ッ」



冷たい口づけが瞼の上に降り注ぎ、頬を通り、最後に優しく唇に触れて離れる。

敷き積もった雪の絨毯が、朝日に晒され宝石のように煌めいていた。



「寒いんだ」


「俺をあっためてよ、クラピカ」







薔薇が似合う君へ



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