「……あち…ィ…」
そう呟かずにはいられない。
ただ今の気温32℃
冷房が壊れたというこの部屋は、窓を開けても風一つ入って来ず、多分に蒸し暑い。
(あついあついあついあついあついあつい!!)
我慢も限界に近い。
この部屋の家主は自分に留守番を頼んだっきり帰ってきやしなくて、自分に対する嫌がらせだと確信した。
それでも断れないのが雇われ身の辛さか。
「ただいまー」
玄関から聞き慣れた声が聞こえる。
(やっと帰って来た)
渋々重い腰を上げて出迎えると、立っているのはこのくそ暑いのに相変わらずの黒い服を身に纏った男。
見るだけで周りの気温が上がった気がした。
「あれ、愛しのご主人が帰ってきたのに何その顔」
「…あつい」
「可愛くないなぁ。わかってるって。はい、アイス」
「…ども」
アイスクリームの沢山入った冷たいビニール袋。
(…きもちィ)
頬にあてるとまるで砂漠の中のオアシスだ。
…こういう所に弱いのかもしれない。
(飼い馴らされてる)
現金な自分にため息が出た。
「ところで、どうしたのその格好?」
「…へ?」
ガリガリくんにかぶりついていると、口を尖らせた臨也が背後に立っていて思わずむせ返った。
「な、何か変ですか?」
正臣の服装は黄色いタンクトップにベージュのハーフパンツという至って普通の格好。
汗を多量にかいているということ以外は普段と何ら変わらない。
「だーかーらー」
「……っッ」
脇から忍び込んだ手が胸の突起を摘んだ。
「な、にすんだ!」
「ピンクな乳首で女の子みたいに感じちゃう正臣くんがなんでこんな胸の見える格好してるのかなぁって。もしかして誘ってた?」
「ちが、ァ!」
(誰が誘うか馬鹿野郎!)
叫びたかった言葉はじんじんと下半身に響く刺激に飲み込まれる。
アイスを持つことで塞がってる右手をいいことにうまく出来ない抵抗。
臨也の温度の低い指先が突起をつるりと撫でると共に、もう片側を熱い口内に含まれた。
「あ、んッ…」
ちろりと舐められたかと思えば軽く甘噛み。
じれったい快感の繰り返しに癇癪をおこしそう。
「や…やめ、〜〜っッ」
「気持ちイんでしょ?ほらこっちも勃ってきた」
ハーフパンツとお気に入りの柄だったトランクスを脱がされ、緩く立ち上がった一物を撫でられる。
「っ…ふぁ」
夜は、まだ長い。
♂♀
「ほら、自分でやってみてよ」
背後から貫かれ、そのまま胡座の上に抱え込まれる。
目の前に立ち上がった自分自身が目に入る。
ソレをこの男の目の前で自ら握らされるなんてなんてどんな拷問だ。
「やだ、やめろ、あつィ…」
「このままじゃイけないよ?最近溜まってただろ。もう沙樹だけじゃ満足出来ない身体なんだから、さ!」
「ッァぁ、ふ…ッ」
下から突かれるとぴゅくりと白みがかった先走りが飛んだ。
身体が熱い。
自分がまるで発火剤になったように沸き上がる熱が脳を苛んだ。
にも関わらず、臨也はぐったりとうなだれた正臣の手をまた濡れそぼったソレに持っていく。
「やだ!やだやだ…」
「叫ぶと声聞こえるよ。窓開いてるんだから」
かぶりを振って泣き縋った正臣は思わず息を呑む。
やや声の低くなった臨也に、機嫌を損ねてしまったことに気がついた。
「あつ…いんです、ほんとに」
「なに。クーラーがある場所ならヤるの?」
「…ッ、今日のいざ、やさん、なんか、意地わりぃ…」
そうだ。
のぼせた頭でもわかる。
臨也は最初から何かに苛立っていた。
「なにか、怒ってる…?おれ…なにか、しました?」
「………っ」
質問に応えることなく、下からの突き上げが激しくなる。
「ひ、ひああああッっっっ」
そのまま右手も一緒に自身を擦り上げられ、正臣の頭は真っ白になった。
♂♀
「…………う、」
涼しい風がほてった体を優しく通り過ぎていく。
(気持ちい)
続けて唇に柔らかい感触が触れると、冷たい水が口内に入り込んだ。
食道を通じて全身に染み渡り、心地好さにうっすら瞳を開いた。
「いざ、や、さん」
「脱水症状だって」
どこか拗ねたような臨也の顔が可愛くて思わず微笑んでしまった。
精液や汗の不快な感触がないのはこの目の前の男が後始末をしてくれたからなのか。
「……すずしい…」
「…扇風機出したからね。来週には冷房も直るよ」
「みず、ほしい…」
臨也の人差し指をきゅっと握って濡れた瞳で見つめる。
(これくらい甘えてもいいだろ)
水で濡れた唇を舐めると、呆れたような表情と一緒に冷たい口づけが落ちてきた。
熱帯夜
それでも服はきちんと着てね