扉を開ければ、そこにはマスクで顔半分を覆い隠した少年がそっぽを向いて立っていた。



「…………」



明るい髪に伏せ目がちの色素の薄い瞳。

見覚えのあるその少年は無言のまま手に持っていたビニール袋を臨也に差し出す。



「ん」



状況を飲み込めない臨也に痺れを切らしたのか、少年はさらに袋を臨也の胸へと押し付けた。


「俺に?」

「……ん」



こくりと頷く。

受け取った袋には某コンビニエンスストアの名前がプリントされており、中はまだほっこりと温かい。



「何これ?」

「……肉まんです」



顔が隠れて表情が見えないのをいいことにずけずけとした不遜な物言い。

臨也はこめかみをひくりと引き攣らせながらも笑顔を崩さず口端を上げた。



「急にどうしたの?」

「誕生日。どうせ誰にも祝われてないだろうと思って」



生意気なその頬をつねり上げてやりたかったが、如何せん何も出来ないのはその言葉が的を射ていたからだ。

自分の生まれた日を
他人に祝って貰おうなんて自己陶酔的な人間ではないけれど、自分の信者達ですら電話の一本も寄越しやしない。

なんとも釈然としないではないか。

波江にさりげなく主張してみれば「友達いないのね。可哀相な人」と普段と全く変わらぬ声色で一蹴された。

目の前の少年といい、雇い主を労ろうという気はないのか、全く。

腕時計を見れば既に長針が十二の文字を越え、日付が変わっている。



「…誕生日もう過ぎてるんだけどなぁ」

「わ、忘れてたんです。思い出してあげただけありがたいと思って下さい」



ずかずかと室内に入り込んでくる腕を掴んで自分のもとに寄せる。

ビニール袋を覗き込めば白い包みが二つ。



「もしかしてこれ誕生日プレゼント?」

「そうですけど」



臨也から離れようと捩る腰に手を回して顔を近づけた。

白い布で彼の表情が見えず、潤んだ瞳だけがまっすぐ臨也を射抜く。



「これ、だけ?」

「………ッ」


そう囁いた耳にかかる紐を外すと、少年の口元があらわになった。

頬はほんのりと朱く染まっていて唇からは熱い息が漏れている。

そのまま顔を寄せた。



「な、にを…」



こつり。

ぶつかる額と額。

やはり低体温の自分より数度熱が高い。



「風邪?」

「………」

「まさかウイルスでもプレゼントしにきたわけじゃないよね?」

「ち、ちが」



暴れる身体を抱いてソファへと下ろす。


「せっかくのプレゼントなら紀田くんを一日自由に出来る権利とかでよかったのに」

「かお、近づけんな…ッ」

「えー。せっかくだからもっと熱上がるようなことしようよ」



服の中に手を入れようとした時、懐の携帯電話が振動を伝える。

渋々取り出し、開いた画面には一通の新着メールが。



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 From:三ヶ島沙樹
 Sub:誕生日おめでと
 うございます
 Date:5/5 0:36
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私からの誕生日プレゼ
ントは届きましたか?

正臣、風邪気味なのに
渋い顔して家を出て行
って。
ああ見えてもプレゼン
ト何にしようかすごい
悩んでたんですよ。

だからあんまり虐めな
いであげて下さいね。

       沙樹
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思わず口許が綻んでしまった。


「誰っすか?」

「秘密」

「にやにやしちゃって気持ち悪い」

「君こそ俺にプレゼントなんて。またよりによってなんで肉まんなのかな?」

「……金無かったんですよ」

「なにそれ。賃上げ要求?」



たわいもない会話をしながら夜は更けていく。


たまにはこんな誕生日も悪くない。




「せっかくだし二人で食べようか」








一日遅れのハッピーバースデー
5/4 HAPPY BIRTHDAY 臨也!!




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