「黒子くん」
君は、僕を振り回す。
にんまりと悪戯を仕掛けたように笑ったり、だからと言って無表情になったり、ころころと表情を変えて世話しない。そんな君が好きなんです、僕がそんな彼に遂に気持ちを溢してしまった日、彼は楽しそうに笑った。僕は真剣だったので、ムッとなったがそれを知ってか知らずか、また笑うので呆れてしまう。
結局、返事を貰えずに退散した僕は次の日から彼の玩具となっていた。以前は特定の人と一緒にはいなかった彼が、僕の隣に。黒子くん黒子くん、彼が僕に話し掛ける姿は一生懸命で。でも、時々不貞腐れては僕から離れるくせに少し経てば何事もなかったかのように隣にいる。僕で遊んでいるのか、それとも。それは僕には分からない事だけれど、前よりも一緒にいられる時間が多くなったことは嬉しかった。
「黒子くんはさ、いらないんだね」
「何を、ですか?」
「僕の答え」
そんなある日、いつものように屋上で昼食を一緒に食べていた時のこと。寒くなってきた、なんていって膝掛けを持ってきた彼は僕の隣に座っては半分、膝掛けを掛けてくれた。膝掛けなんて女の子みたい、と思ったのは秘密である。弁当を広げてタコの形をしたウインナーを僕にくれて、彼はカニの形をしたウインナーを頬張っていた時に言ったのだ。
僕の答え。そう言った彼に吃驚して顔を見てしまえば、にんまりと笑っている。…これは、からかっているな。
「あ、今からかってる、って思ったでしょ」
「そんなこと、ありませんよ」
「えーっ、嘘だぁ」
ほら、やっぱりからかっているじゃないか。語尾を伸ばした彼を可愛いなんて思った自分を殴りたい。無視してしまおう、と僕は視線を彼から弁当へ移せばそれが気に入らないのか、嫌がらせのつもりだろう、ぴったりとくっついてきたのだから厄介である。こんなにも密着するのは、実は初めてだから。胸の鼓動が自棄に五月蝿く感じて、僕は彼から距離を取った。うるさい、…うるさい、僕の心臓!
横目で彼の表情を窺えば、やっぱり笑っていたけれど。いつものようなからかっているような笑みじゃ、なかったんだ。
「イエスかノーか曖昧か…。君は、どれを望んでいるのかな?」
僕の答えは決まっている。
それを口にすれば、君は頬をほんのり赤く染めて、笑ってくれました。