「くしゅん!」
「おいおい、大丈夫かよ?」
「うん、毛布持ってきてるからへーき。」
地球温暖化の影響なのかうだるような暑さの夏から秋をすっとばして冬になったような気がする。高尾と夏休みに約束した“星を見る”というのも夏の大三角から冬の大三角になりそうだ。くしゃみのときに少しだけ垂れてしまった鼻水をポケットに入れていたティッシュで拭きながら思った。「鼻水たらすなよー。」と高尾がけらけら笑いながらいうので殴っておいた。うるさい。
「しっかし、寒くなったよな。」
私がぎゅっ、と握ってる毛布をちらり、と見ながら高尾がしみじみ呟く。
「高尾は、寒くないの?」
「うーん、まあ、ちょっとは。」
「・・・・・・そっか。」
・・・何がちょっとは、だ。私はカーディガンを羽織っていて、毛布も持っていて、ポシェットの中には未開封だけどカイロだって入ってる。ちなみに貼るタイプじゃないやつ。対する高尾は?半袖半ズボンで、お風呂あがりらしく艶のある黒髪はしっとりしている。何がちょっとは、だ。別にいってくれていいのに。頼ってくれていいのに。「寒い」って。私、自分でいうのも変だけど、そんなに意地悪じゃないのに。言ったら、毛布を貸してあげてもいいし、カイロをあけて高尾に渡してもいい。毛布は大きめのサイズを持ってきたから2人ぐらい余裕ではいる。
「・・・・・・。」
「みょうじ?」
「・・・・・・・・・。」
「もしもーし?聞こえてる?」
「・・・高尾。」
多分、高尾からみるとすっごい顔してるんだろうなあ。って自分でもわかるぐらいの不機嫌面で高尾の名前を呼ぶ。私の酷いであろう顔をみてわたわたと珍しく慌ててるのをみてざまあみろ。って思ったのはここだけの話。別にいいよね?これくらい。
「みょうじ?どったの、寒い?」
「・・・・・・。」
高尾の服の袖を引っ張る。
「高尾、いっしょに入ろ?」
さっきの私の顔を思い出したのか、おとなしく私のすぐとなりに腰を下ろした。ああ、やっぱり冷たい。高尾め、寒かったくせに。我慢なんか、しなくていいのに。遠慮なんか、しなくていいのに。
「なあ、みょうじ?」
「なーに。」
「月、行ってみたい?」
「は?・・・えと、行けるなら。」
「じゃあさ、宇宙旅行が可能っつーか、お手軽?になったら連れてってやるよ。」
「これのお礼にさ。」にやり、と笑いながら毛布の下で私の暖められた手に手を重ねてきた高尾にすこし、きゅんとしたのは仕方のないこと・・・だと思う。
「あ、そだ。真ちゃんとかも誘おーぜ!」
あ、うそ。私のときめきを返せばかやろう。
(20131103)