長編 | ナノ


7.はじめてじゃない色



なまえと初めて会ったのは、あいつが師匠に連れられて里にやって来たとき。


師匠が子どもを拾ってくるなんて日常茶飯事だったから、普通はいちいち初めて顔を合わせたときのことなんて記憶に残ってない。けど、あいつと会ったときのことは今でもはっきり覚えている。



――“あの頃の俺様と同じ目”



そう思った。


誰ひとりとして信じていない。
生きることに何の価値も見いだせない。


まだ幼いにもかかわらず、この世の全てを捨てきったような、そんな目。


師匠に拾われて忍になるやつなんて何かしら過去に闇を抱えてるやつばかりだけど、なまえのその雰囲気は、なかなか俺様の心を抉るものがあった。


その後、里を離れてからは顔を合わせることはなくて、何年かぶりに再会したのがついこないだってわけ。


久しぶりに会ったあいつは、当時の真っ暗だった空気も感じさせなくなっていて、印象がだいぶ変わっていた。


やる気があるんだか無いんだかわからない表情のくせに、その佇まいは、やけに堂々としていて。
きっと自分の実力に対する自信のあらわれなんだろう。


忍らしくない飄々とした物言いは、旦那に仕える忍として上手いことはまって、最初はなまえが女だったことにビビっていた旦那もすぐに心を許したみたいだ。


戦闘能力も十分で、忍としての実力はまさに申し分なし。


でも、どうしても違和感が心の隅にあるんだよね。





あの頃の“目”は、いったいどこに隠している?





自分自身、旦那に出会ってからかなり変わったと思う。
こんなに人を信じて仕えることなんてあり得なかったし、給料以上の働きをついついしてしまうなんていう余計なこともしなかった。心から人のことを心配したこともなかった。自分が傍にいてやらないと、と思ったこともなかった。
あの頃からは考えられないくらいに、旦那は俺様を変えた。


俺様を、“ひと”にしてくれた。


もちろんそれは、忍としてはあってはならないことなんだけど。
正直、この環境を心地良いと思っている自分がいるのも事実だったりして。



こんな風に、なまえも何か良いきっかけがあって変わったのなら、それでいいと思う。


でも、違ったら……?



自分の感情さえも、あきらめてしまっているとしたら?


ふとしたときに、あいつの目に当時の色が映っているような気がして、寒気がすることがあるんだ。
本当に一瞬。俺様の気のせいなのかもしれないけど。
ただ、もしかしたらその“色”を知っている俺様だからこそ、見えるものなのかもしれないとも感じていて。


気付いてやれるのは、俺しかいないかも、なんて。



……なんか、らしくないな〜。こんなに他人のこと気に掛けるようになるなんて、本当に丸くなったもんだ。甘いな〜俺様も。



まあ、あんまり心配しても余計なお世話だろうし、とりあえず甘味でもこしらえますかね。
今日は桜餅でいいかな。




べ、別に、あいつが昨日食べたいって言ってたから作るわけじゃないし……!








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