長編 | ナノ
客間へと移動し、皆で茶を飲む。
なぜか忍の私も一緒に。長ならまだしも、なんで私がこの場にいるんだ。
一度断ったにも関わらず、幸村様に強引に引き止められた。
しかも、散々遊びに来たと言う割には、全くと言って良いほど会話がない。黙って茶を飲んでいるだけ。
幸村様と独眼竜の関係って、一体なんなんだ。
「おまたせー。」
そろそろこの空気に耐えられなくなりそうというところに、茶を出してさっさとどこかへ行っていた長が戻って来た。
「いやー右目の旦那が持ってきてくれた野菜、今回もすっごい立派なのばっかりだったよ。料理し甲斐があるってね。」
「それはよかった。」
……なんだこれ。
「Ha!旨そうだな。」
「もしかして俺様のこと褒めてんの〜?」
「……ちげぇよ!小十郎の野菜が旨そうだって言っただけだ。」
「ふぅ〜ん。はいはい、皆さん召し上がれ〜。」
「佐助ェェ!!旨い!!!!片倉殿の野菜の味をここまで引き立てるとは、いつも思うがさすがだな!!片倉殿、いつも斯様に上等な野菜を、かたじけのうござる。」
いきなり皆で楽しくご飯の時間になったぞ。ついていけないぞ。
でも…確かに目の前の料理はどれも美味しそうで、目にした途端一気に空腹感に襲われた。
「ほら、なまえも食べなよ。」
「あ、あぁ。じゃあ。」
まずは、煮物のごぼうを一口。
……!!!
なんだこれは!美味しい!
こんな煮物は、こんな野菜は、今まで食べたことがない。
忍なりに、密偵として上級武士の会食に参加したこともあれば、敵国の有力者をもてなしたことだってある。それにこちらに来てからは、幸村様が私たちとともに食事をしたがるため、一般的な忍よりははるかに良いものを食べさせてもらっている。それなりに、上等なものを食べてきた、という経験はあるはずなのだ。
なのに、この素朴な煮物が今まで食べたものの中で一番美味しい。
長の作る料理はいつも美味しいのだが、やはりこの味は右目の作る野菜の力もあるのだろうか。
とにかくどんどん箸が進んだ。
「…ってなまえ食べるのはや!!」
「おお…!やはりなまえの口に合ったのだな!なまえにも、この素晴らしい料理を味わって欲しくてな。」
「幸村様……!」
我ながら、目が輝いてしまっているという自覚がある。
忍のくせに食い意地が張っているのも知っている。
「お前、随分と旨そうに食うな。」
「片倉殿、なまえが物を食べている姿は、毎度見ていて気持ちが良いのでござる。」
「そんな風に幸せそうに食われちゃあ、こちらとしても作り甲斐があるってもんだぜ。」
なんか、怖い右目改め片倉殿にちょっと微笑まれた。
「小十郎にいきなりこんな顔させるたァ、なかなかやるじゃねぇか。なまえって言ったか?気に入ったぜ。」
心なしか、独眼竜がお父さんを褒められて誇らしげな息子に見える。
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