長編 | ナノ


そしてその後、馬を走らせお館様のもとへとやってきた。幸村様と、長と。
普段幸村様は上田城の主として生活している為、報告の際や、こうして幸村様に付いて躑躅ヶ埼館を訪れるときしかお館様と接する機会がなかった。


それにしても、毎度その存在感には驚かされる。


しかも、このお方も幸村様のように、草の者である私たちを人として扱う。
未だ数回しか顔を合わせたことのない新入りの私にも、まるで我が子のように接してくださったのには驚いた。


厳しさ、強さ、優しさ、賢さを併せ持ち、民も兵も分け隔てなく愛情を注ぐその姿は、まさに“甲斐の父”。



その大きな大きな背中に向かって、幸村様が叫ぶ。



「お館さぶわぁ!此度の戦、迎撃はこの幸村にお任せくだされ!!某も、今ではお館様より上田の地を預かりし身。誠に僭越ながら、己の力で、お館様の、我らの国を護りとうございます!!」



お館様は、ゆっくりと振り返る。



「うむ。お主も言うようになったな……だが……」



ブワッ…っと、辺りの熱が舞い上がったような気がした。




「それで良いぃぃぃぃいいいいい!!!!」




―――ガッシャァァァァァン



全身でビリビリと空気が揺れるのを感じる程のお館様の雄叫びと同時に、庭の端の塀まで飛んでいく我が主。



……これが、武田の名物"殴り愛"。



ふと横にいるはずの長を見やると、呆れを通り越して“無”になっていた。
苦労してるんだな、長も。




「幸村よ。儂の意思を受け継ぐのはお主じゃ。この身も既に、老いぼれと言われてもおかしくない歳になっておる。今後の甲斐のためにも、お主の言うように、己の力でこの地を護れるようになってみせい!!!」



壁にめりこんでいた幸村様の表情が、だんだんと輝き始める。



「此度の戦、儂は我が領内にて陣をはる。お主は後ろのことは気にせず、眼前の敵を倒すことに集中し、見事打ち払って見せよ!!経験を重ねるうちに、いずれはお主が大将として戦に出ることもできよう!!」



「お…お、お……お館様……」



俯いたままじりじりと前に踏み出す。






「有り難き幸せにございまするううううぅぅぅ!!!」



「ぶべらぁッ」



一瞬宙を舞い、吹っ飛ばされるお館様。
あの巨大な体を良くもあんな風に飛ばせるものだ。
私にもできるかな。







back
top
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -