短編 | ナノ
「ゆき…むら…」
「なまえ…」
二人は共に血溜まりに横たわっていた。
戦の最中であるにも関わらず、不思議と周囲は静まりかえっているように感じる。
(これも死が迫っているからか…。)
大阪夏の陣。
幸村の本陣襲撃により、大きく戦況を動かす兆しが見えるも、家康を討つことに一歩届かず西軍不利のまま。
後に二人は合流するも、既に満身創痍。
怪我の応急処置をしていたところを奇襲に遭った。
なんとか相手にも深手を負わせたため首まではとられなかったが、二人の傷はもはや致命傷である。
「なまえ…。俺達には…もう…時間が無い…。」
「うん…。」
「戦場にて果てるは、本望なれど…なまえを…護りきることが…できなかった…。」
「私だって武人…よ。もとより、護られようなんて、思ってないわ…」
「され、ど…」
「私も…戦場で死ぬのは、本望…。それに…最期の時まで、幸村と一緒にいられるなんて…すごく幸せ…。」
なまえは微笑んだ。 死の淵に立たされているとは思えないほど、 穏やかに。
「なまえ…」
「幸村…大好き。愛してる…」
「俺もだ…。愛してる…なまえ…」
幸村は、もう力の入らない体を叱咤し、首から下げている六文銭を外した。
「ゆき、むら…?」
そのままそれを、投げ出されたなまえの手の上に置き、自らの手を重ねる。
「どうか…これからもずっと、共に…。例え生まれ変わろうとも、また…共に生きることが、できるよう…」
「うん…来世で、また…逢おうね…。二人で六文でも、ちゃんと……生まれ変われるかなあ。」
「たしかに、ひとり三文では足りぬな……だが……俺となまえは二人でひとつのようなもの……きっと大丈夫だ……。」
「そうだね……」
互いに静かに笑い合った。
「なまえ…」
「幸村…」
「「愛してる…」」
二人は共に息を引き取った。
おわりなのか、はじまりなのか
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