短編 | ナノ
いくら互いに愛し合っていようと
何度こうして肌を重ねようと
私達が結ばれることはない。
そんなことは百も承知。
最初から分かっていたんだ。
だから
あなたに彼女ができた時も
婚約したことを知った時も
胸が痛くなったのはほんの一瞬だけだったよ。
「どうして…どうしてなまえと俺は、互いに結ばれることが許されぬ立場で出逢ってしまったのであろうな。」
痛いくらいに強く抱きしめながら、彼は言った。
「でも、違う状況で出逢っていたらこんなに好きになることはなかったよ。」
「…そうだな。」
このやりとりも、もう何度目だろう。
「けど…違う立場で出逢っていたら、私達きっと結婚してたね。」
矛盾しているけれど、全部本当のことだと思う。
彼は私の言葉に頷く代わりに、噛みつくように口付けた。
あなたが他の人と結ばれようと痛みを感じないのに
こうしてあなたと愛を確かめ合っている時の方が、苦しくなるんだ。
あなたに愛されていることを全身で感じることができて、嬉しくて嬉しくて涙が出てくるのに、同時に辛くて辛くて涙が出てくるんだ。
すると唇から彼が離れ、言った。
「…来世ではどうか、ずっと俺の側にいてくれ。」
苦しみが、少し和らいだ気がした。
そっか、その手があった。
じゃあ、これ以上はもうあなたのお嫁さんへの罪悪感に耐えられなくなるから、この関係は今日でおしまい。
次に私たちが愛し合うのは、何年後か何十年後か、ひょっとすると何百年後かもしれない。
けれどその時が来たら、今度は心のわだかまりも罪悪感も感じることなく、どうか私だけを見て。私だけのものになってね。
次に逢った時は、隠れて逢ったり、みんなに秘密にしたりしないで、堂々とラブラブしたいな、なんて。
今生はこのままで
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結ばれない
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