短編 | ナノ


めずらしく2ページあります






大学3年の、初夏。
今年からは必修科目もなくなり、同じクラスの友達にもなかなか会わなくなった。
授業もあまり被らないし、そもそも学校にまともに来ないひとばかり。
大学って、そんなもん。


わたしもそんなに授業には出ていなかったけれど、そろそろテストに向けてまとめに入るころかと思い、たまにはちゃんと学校行くか、ということで、教室へ向かう。


なんだかんだ時間ギリギリ。せっかく行くのに遅刻とか損した気分になるから間に合わせたいな。
ひとり、ずかずかとキャンパス内を闊歩する。


あれ、どこの教室だっけ。あぁ、たしか103教室だ。こっちか。あ〜やっと着いた。間に合ってよかっ


―――ドン!!


「うわぁっ!!って、え…!?」


突然後ろから襲いくる衝撃に踏ん張りきるほどの体幹を持っていなかったわたしは、そのまま前につんのめり、倒れた。
腰のあたりに感じる重み。うつ伏せの体を必死に返して、重さの原因に目をやる。


「痛い……腹打った……。え、まじでなにこれ、あんただれ、え、」


……男がわたしの腰にしがみついていた。


大学内に変質者が現れたのかと思い、なかばわたしの思考回路はパニック。
普段は淡々と余裕ぶってるくせに、人間こういうときは、本当にわけがわからなくなるものだな、情けない、と、変なところでは冷静になっている自分がいた。


けれど、顔を上げた男を見て、わたしの脳に閃光が走った。



“見たことがないのに、見たことがあるもの”



頭が破裂するのではないかというような、一気に押し寄せる衝撃。襲いくる情報の波に頭が耐えきれず、痛くて痛くて、さっき思い切り打った腹よりも痛くて、涙が出てきた。



「なまえ……だよな…」



震える声でそう言った男の声は、たった今、わたしの頭に押し寄せたものたちのなかで聞こえたものだった。


痛くて痛くて流れていたはずの涙は、気がつくと、苦しくてつらくて、でもとてもうれしくて流れる涙に変わっていた。


「きよ…おき…?」


時代が変わってしまうほど久しぶりに呼んだ名前。
それを聞いたとたん、涙をぼろぼろこぼしながら、くしゃっと笑顔を浮かべて彼は言った。


「なまえ、久しぶり!」



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