短編 | ナノ


「おっなまえちゃんの手作りおはぎ!」


「久しぶりに作ったから…上手くできてるか分かんないけど。」


昼休み。なまえちゃんは手作りのおはぎを広げる。彼女の言う「久しぶり」っていうのは、きっと平成の世に生まれてからは初めて作ったっていうことなんだろうな。


「旦那ァ!なまえちゃんがおはぎ作って来てくれたよ!」


「なんと!なまえ殿、某もいただいてよろしいので!?」


「もちろん。みんなで食べよう。」


なまえちゃんのおはぎ、懐かしいな。俺様と旦那の大好物。
なまえちゃんがおはぎを作ってくれるようになってからは、俺様の手作り団子はお役御免。忍らしからぬ仕事がひとつ減って嬉しかったのと同時に、正直ちょっとだけ悔しかったんだよね。
けどやっぱりなまえちゃんのおはぎには俺様もかなわないんだなこれが。



これを食べて、旦那も少しはあの頃のことを思い出してくれたりなんかしないかな。早く思い出さないと、俺様がなまえちゃんのこと貰っちゃうよーなんて。



そんなことを考えつつ、おはぎを口に運ぶ。んーやっぱり美味しい!



「なまえちゃんこれ超美味しい!」


最後に口の動きだけで「相変わらず」って伝えたら、なまえちゃんは嬉しそうにニッコリ笑ってくれた。


でも、俺様がどんなに美味しそうに食べても、なまえちゃんにはまだ足りないんだ。


ほら、旦那。早くあの頃を思い出してよね。なまえちゃんを心から喜ばせられるのは旦那だけなんだから。



そう思って、食べ始めてから妙に静かだった旦那の方を見た。




旦那は泣いていた。




「某、何故か突然涙が…」


なまえちゃんは、少し驚いた顔をして旦那を見ていた。


「なまえ殿…某、こんなにも美味しいおはぎは初めて食べ申した…いや、前にも同じ味を食べたことがあるような…しかしいつ…」


思い出した訳では無いみたいだけど、なまえちゃんのおはぎの味は、遠い遠い記憶の底まで届いたようだった。



「じゃあ私、明日からも毎日おはぎ持ってくるね」



「うおお!明日から毎日なまえ殿のおはぎが食べられるぞ佐助ェ!!感無量にござるうううう!!」



コッソリ「じゃあ俺様の団子はまたお役御免になるのかなー」って言えば、なまえちゃんはそれはそれは嬉しそうに笑った。



ちょっと!今回は俺様だって負けないんだからね!


……あれ、なんで俺様ムキになってるんだろ。






記憶の底に、届くもの







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