………
「……確かに、あの鎌之佐には娘が一人いたけど…。まさか、ここでとんだ収穫があるとは思わなかったな」
「……それは、まだ分からねェ。手紙の内容を見るまではな…」
あ、そと玄は言った後、妙な笑い方をした。
「……それにしてもさ、そこの小娘の素性の手がかりが載ってるかもしれない手紙を、今の今まで開けてないってどういうことなの?」
「……そ、それは、」
狼が口ごもった。
暫く、息を潜めていた嫌味が顔を出した。
「あー…、まさか、泳がせてた、とか?」
「!」
咲が息を呑む。
狼が何か言いたそうに口を開きかけたが、そのまま何も言わずに口を閉じた。
……
泳がせてた ……………?
―――
その時、からりと戸が開いて桔梗が戻ってきた。
「―――只今、戻りました。手紙です」
「ご苦労」
狼は手紙を受け取った。
……
鎌之佐と書いてある文。
「……咲」
「―― ! はい…」狼の声に脅えたような小さな声で答えた。
「……手紙、俺が開けても構わねェか?」
「ええ、どうぞ…」
狼がゆっくりと手紙を開けた。
そして、狼の目が文字を追っていく。
すぐにその目が、悩むような光を帯びて瞬いた。
「……で、狼。鍛冶屋の鎌之佐で間違いないわけ?」
玄がじれったそうに言った後、狼の返答を待たずに手紙を奪い取った。
「おい、玄!」鈴鳴が咎めたが、もう遅い。
「えーと…、なになに…、………ああ?」
「……間違いなさそうだが、書いてあることがどうも不可解だな」
狼は、優しく手紙を玄の手から受け取ると咲の方に差し出した。
「恐らく、自分の娘にだけ通じるように書いたんだろう。咲、読んでみろ」
「…」
咲は無言で受け取って、文字を目で追った。
………………………………
お前も知っての通り、父さんは近々、罰を受けることになるだろう。
仕方のないことだ。
覚悟はしている。
あのような恐ろしい妖刀を生み出した責任は全て父さんにあるのだから。
……
いやいや、
心の中のもうひとりの自分は激しく否定している。
人の姿をした鬼を斬ったまでのこと。
鬼が鬼を喰っただけなのだ、と。
奴らは鬼だった。
ひとでなしだった。
許せるはずはない。
鬼を殺したあの刀は、ただ罰を与えにすぎないのだ。
鬼の化身のひとでなし共に罰を与えただけなのだ。
しかし、
今やその刀は必要なくなった。
その刀は存在すべきではなくなったのだ。
鬼には血の生け贄が必要だ。
あの刀は血に飢えている。
意味のない血が流される前に、
悪しき者の手に渡る前に、その刀をこの世から消し去らなければならない。
奴らの手が、鬼まであと少しと伸びているのだ。
――咲よ。
父さんは恐らく、作り手としての使命を果たせそうにない。
その時は、お前が果たさねばならない……
鬼の使者としての役割を果たせよ。
必ず………
………………………………
「…お、鬼の使者?」
「恐らく、咲は鬼の刀の居場所を知ってるってことだ」狼が言った。
……
あと、気になる点がもうひとつ …―――
「鬼まであと少し…。これは、操り師にあった文句と同じだ」
「え…?」
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