「「――うらァアアア!!」」




気合いの掛け声を一つして、火焔隊衆と疾風隊衆の暴動のちょうど間に滑りこんだ、杢太郎と栄吉二人が火焔隊衆を二人で片腕ずつで弾き飛ばした。
あまりのことに、刀を片手に唖然としている疾風隊の前に地面に額をこすりつけんばかりに、土下座した。






「「――は!?」」



疾風隊は突然、現れ、土下座する二人に目を丸くした。火焔隊も同様である。




「「……本当に!!疾風隊の皆さん方!!申し訳ありませんっ!!」」






謝る杢太郎と栄吉を見た火焔隊隊士達はどよめき、血の気の多そうな、その中の一人が二人の半纏を掴んで引いた。



「――杢!栄吉!何、みっともねェことしてんだよ!?止めろって!!」
「……みっともないだァ?」杢太郎が立ち上がり、振り返って腕を組んだ。




「町を守るのが使命の俺逹が、山賊のまがいモンみたいなことしてんじゃねェよ!!」
「「うっ……」」
火焔隊隊士らが一斉に目をそらした。





更に、栄吉がとどめを刺した。

「どう見ても、俺逹に非があるのに謝って何が悪いんだ?」
栄吉が呆れて言った。
そして、くるりと振り返る。




「疾風隊長さん、疾風隊士の方々、ご迷惑をおかけしました。……特に、町の方々に」栄吉が野次馬の方を向いて、頭を下げた。



杢太郎も続いて、頭を下げた。
「同志がご迷惑を…。――勿論、代金や壊した物の弁償は必ず致します!申し訳ありませんでした!」




疾風隊や野次馬はしーんと水を打ったかのように静まりかえった。
杢太郎や栄吉は頭を下げ続けている。




暫くして、その沈黙を破ったのは狼だった。




「――杢太郎、栄吉。頭を上げてくれ」
狼は前に進み出て、ぽんぽん、と二人の肩を叩いた。




「……さァて、どうしたもんかね…。ま、お前らは、ともかくとしてだ。問題は、その後ろの馬鹿共だな」
狼が玄によく似た笑みを、ふてくされたようにそっぽを向いている火焔隊隊士達に向けた。




「…な、なんだよ」
「全く…。評判通りの山賊ぶりだな、お前らは。恥ずかしくないのか?」
狼が頭をかいて、首を傾げた。



「…そんなことばかりしていては、玄に迷惑がかかるだけだぞ。さてさて、俺の言う意味は分かるかな?火焔隊諸君」




「「…」」



「……玄はお前らを信用して火焔隊に率いれたんだ。それに見合う働きをしないで、迷惑ばかりかけてどうする」
狼はにっと笑って欠伸を一つすると、野次馬に顔を向けた。



「――騒がせて悪かったな、皆様方。代金もちゃんと払うし、壊したもんも弁償してくれるらしい…。ここは一つ、疾風隊に免じて多目に見てやってくれ」



野次馬から不服らしいざわめきが起こった。
どうも、疾風隊と火焔隊の一世一代の大勝負を見損ねたのが、気に入らないらしい。





その様子を見た狼が後ろをくるりと振り返り、嫌な笑い方をした。
しょうがねェなァ、と呟いた後、群衆に向かって言った。




「――じゃ、あれだな……、弁償金と代金、100倍以上でどーだ?」



「――ええ!?流石に、言い過ぎですよ!狼隊長!」鉄が他人事ながら、心配そうに言った。




「――はァ!?100倍以上だとォ!?」


「問題ないだろ?迷惑かけたんだから」
狼が事も無げに言う。



「は、疾風の旦那!?流石に無理ですよ…」


「んな金額、一生かかったって…」


「あのなァ、杢太郎、栄吉。無理無理言ってたら、一生無理だぞ☆夢位、見せてやれ」





狼の楽しげな笑いが木霊した。








………………………………



「んな大金、払えるかよ!!」
「だからさ、少しずつでいいから払えって……、ん?」
どうも大変なことになったらしいと慌てている火焔隊を軽くあしらっていた狼が何やら駆けてくる足音にくるり、と振り向いた。




「――あれは…、神城か?」




……


そして、神城に袖を引かれているのは …――





「さ、咲ちゃん!?」
狼が驚いて、二人の方へ走った。



「無理なもんは無理だって…。――ちょ、聞いてんのか!オイっ!」














………………………………




息をきらしながら、咲は聞いた。
「――か…、神城さん!玄の字さんは、本当に」
「……お前は、自分のことを心配してろ」





……



静香を斬った久信とかいう野郎に、


姫夜叉として恐れられた姫乃、


かつて、剣豪として名高かった赤鬼の源能斎、




それに ――






「――ああっ、くそ!!面倒な事になりやがった!!」神城は、頭をがしがしとかきむしった。



「…か、神城さん?」
「悪い悪い。頭を使うのは俺の仕事じゃねェからさ…」
「――?」
「いや、こっちの話」





……



それに、


綾都とかいう主犯。





……



あれだけの奴らを束ねる親玉だ。


只者じゃねェ……。





「――とりあえず、誰かと合流しねェとな…」
「――神城っ!咲ちゃん!」




神城が視線を前に戻して、目を丸くした。




神城が目を丸くしたのも、無理はない。




見慣れた疾風隊士数名がいるばかりか、目立つ朱の半纏が大勢、道に溢れていた。






「なんだ、コリャ…」
「やっぱり!咲ちゃんか!伊勢屋にいたんじゃなかったのか?――神城!お前…!まさか…」
「俺が連れ出すかよ!とにかく、それはさておき…」





……



大変なことになったぜ、狼。





神城は走ってきたからばかりではない額に浮かんだ汗を拭って話し出した。







[*prev] [next#]
[目次]



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -