……


息が苦しい。

前にもあった。

こんな息苦しさは……。




「――咲!!」
神城の声が追いかけてくる。




……


なんで、追いかけてくるのだろう ……?


この人達はなんで、信じようとしてくれるのだろう……?






…。




……


信じていなかったのは、


私の方なのかもしれない。



ぐい、と腕を後ろに引かれた。



「――わ!」



神城が息を切らして、咲の腕を掴んでいた。
「……やっと追いついた!!ったく、急に走り出すなっての!あと、裏通りは危ねェっつったろ!!」
「ご、ごめんなさい…」
「あのな、お……」



神城は、言葉を急に切って刀に手をかけた。
「か、神城さん?」




そのまま音もたてずに抜刀すると、振り返った。
「――おいおい…、なんで、お前がここにいるんだ?」




姫乃。




神城は後ろから近づいてきていた人影を睨んだ。



「お前……、死んだんじゃなかったのか?」
「あら、嬉しくなさそうね。折角、黄泉からわざわざ会いに来てあげたのに」
小首を傾げて、微笑んだ。髪につけた、繊細な簪がそれにあわせてしゃらん、と揺れた。



――確か、梅屋の前の長椅子に腰をかけていた芸者風の女だ。



神城は揺れる簪を見て、目を細めた。
それに、気づいた姫乃はクスクス、と笑う。
「――そうよ。これ、貴方から貰った簪」
姫乃がそれを外して、振ってみせた。



しゃらしゃらと小さく、音をたてた。
「神城くん、やっぱり、懐かしい?」
「…」
神城は黙ったまま、答えない。



姫乃は口の端を吊り上げて、笑みを浮かべた。
咲の背筋にぞくり、と悪寒が走る。
「……随分、昔のことのような気がするわ。貴方があたしのお店に通ってくれたこと」




……


本当に、懐かしい…。




姫乃は簪を手からそっと離し、地面に落ちたそれを踏みつけた。



「――ふふっ、傷付いた?」
「いや……、」
神城はばらばらになった簪に目をやった。



「まだ持ってたのか」
「まあね。大した意味はないけど、また会う時の為にとっておいたの」
神城は小さく自嘲するように笑った。
「……嫌な女だよな、ほんとに。で、」
神城は剣呑に目を細めた。



「川に身を投げて死んだはずのお前が、今更、何の用だよ?」
「ふふっ、」
姫乃がおかしそうに笑った後、痩せた長い指で神城の後ろをさした。



ぎくり、と咲が身を縮めた。



間違いなく、長い指が自分をさしている。
「ね、神城くん。あたしにその女のコ、譲ってくれない?」



神城が額に浮かんだ汗を拭い、咲の肩を叩いた。
「こいつに、何の用だ?今、家に送る帰りなんだよ。邪魔すんなって」
「――神城さん…?」
神城が何かに怯えているように、咲には見えた。




姫乃がす、と目を細め、せせ笑う。
「あたしに居酒屋の看板娘なんて嘘、通用すると思ってるの?」



「……お前まで、なんで、こいつをつけ狙う!?」
神城が咲を後ろにかばいながら、言った。




「―― 決まってるじゃない」




ニタァ、と姫乃は残忍な笑みを浮かべた。





「あたしが操り師だからよ、神城くん」

「…!?」









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