がる空
10

黒い髪に青い瞳が俺のチャームポイントだ!が口癖の青年、シン・サッチャーは、弾丸飛び交う戦場に居た。

「がっは、あァ…!」

「スペス…!」

共に走っていた探索部隊(ファインダー)の男が、アクマの放った弾丸に倒れる。シンは駆け寄ろうとするが、探索部隊の男は砂となり、追撃の弾丸が二人を引き離した。
悲鳴をあげて、シン・サッチャーは涙と鼻水を流しながら再び走り出した。

「う…あっ!だだ誰か…助けっ!」

実はこの青年、黒の教団アジア支部科学班所属の、結構優秀な研究員である。何故そんな人間が戦場に居るのか。

理由は簡単。エクソシストの不足だ。

本来ならばとっくに到着している筈のエクソシストが来ない。アクマと戦う事が出来るのは、神に選ばれたエクソシストのみ。そのエクソシストが居ない戦場に取り残された探索部隊を救う為、アジア支部一の逃げ足を持つシン・サッチャーは、結界装置(タリスマン)を持ってここにやって来たのだ。

しかし結果として進化したレベル2のアクマによって結界装置は壊され、生き残りは彼自身のみ。とんだ無駄骨であった。

「ひ…っ、あぐっ!」

走り過ぎてもはや疲労が限界に達していた足がもつれて、シン・サッチャーはドシャリと派手に転んだ。慌てて上半身を起こして振り替えれば、目の前には銃口。

『バイバーイ、人間』

「い、嫌だ……死にたくなっ」

ドンッ

腹に一発。それだけで十分だった。

アクマの放つ血の弾丸には、人体を破壊する毒(ウイルス)が含まれている。寄生型のエクソシストでもない限り、撃たれればまず助からない。そして黒の教団に所属するシン・サッチャーも、その事実は痛いほど分かっていた。
血を吐き出したその顔は絶望に染まり、やがて砕け散った。


『ああぁぁ!殺し足りないぃぃ』

狂った様に叫ぶレベル2の周りに、他のレベル1のアクマ達が集まってきた。レベル1は知能を持たない為、レベル2の指示に従うのだろう。
近くの街を殲滅しようか、と言おうとしたレベル2の顔を、拳銃の弾が直撃した。

『誰だ!?』

アクマにイノセンス以外の攻撃は通用しない。銃弾がアクマのボディを傷付ける事は無かったが、不意を突かれた事に苛立ったのかレベル2は勢いよく振り返った。 その瞬間、レベル2の背後で火柱が上がった。

『な、何だっ!!』

突然の火柱は、レベル2の背後に居たレベル1一体をあっさりと焼き尽くし、更にその数を増やした。


「…成る程、死ぬ気の炎を使った幻覚は効くようですね」


ジャリ、と地面を踏みしめる音と共に、少年の静かな声が響く。

「堕ちろ、そして巡れ」

その姿を視界に映す事も叶わないままに、レベル2も他のアクマと同様、燃え盛る炎に焼かれた。

熱風で髪を揺らした少年は、オッドアイの怪しく光る瞳を、砂と化した人間達に向けた。


「さて、どうしたものか…」


その表情に、焦燥や不安の影は、ない。




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