dream | ナノ




偽りの愛



人は皆、嘘をつく。

どれだけ笑顔を向けられても、親切にしてもらっても、
裏ではどんな顔を持っているか分からない。
みんな、うそつきだ。


まだまだこれからだという時期なのにも関わらず、
仕事や恋愛で嫌というほどそのことを思い知った。
気付けば他人を信じることができなくなっていた。

いや、そのほうが楽なのかもしれない。



「好きだよ」


私を抱き寄せて、耳元で彼が囁いた。
そんなことを言いながら、昨日も花街へと出かけていたのだろう。
同じように甘ったるい声色で今まで何人もの女性の顔を赤くさせたのだろう。
知っている。知ったうえで、私も彼を必要としている。


彼の背中に手をまわすと、向こうもより強く抱きしめてくる。
目が合う。そして、唇を重ねる。


私たちの間に深い愛などというものは一切無い。
どろどろと足元に纏わりつくような不快感、裏切られるのではないかという恐怖感など生まれない。
相手を信じることもなければ、疑うこともない。
ああ、なんて心地良いんだろう。



「好きだよ、柚季ちゃん」


長い長いキスを終え、優しい笑みを顔に浮かべた彼がもう一度言った。
同じように微笑んで彼を見つめる。


「私も。好きです。白澤様」



そこに深い意味なんて必要ない。
薄っぺらくても構わない。
彼と過ごす時間だけが、人を信じられなくなった私の心を唯一満たしてくれるのだから。







menu


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -