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始祖が地下牢に閉じ込められて一体何百年の時が過ぎただろう。エンデツァイト病という感染症のせいで多くの同胞がこの地下牢で息を引き取った。免疫力の少ない年寄りや子供から徐々に亡くなっていき、倒れていくドミノのように次々仲間が死にゆく日々。私の両親もエンデツァイトを発症し随分前にここで亡くなった。ついに生き残っている始祖は私とカルラとシンだけ、当初満員だったこの牢も今じゃスカスカだ。

『カルラは何読んでるの?』

この閉鎖的空間で唯一の楽しみは本だ。本はここが地下牢だという事を忘れさせて色んな所へ私を連れて行ってくれる。いろんな情報を私にくれる。何百年も地下牢に閉じ込められていたのに発狂せずに居られたのは本のおかげだ。

「今は下界の哲学書を読んでいる…人間は本当に奇妙なことを考えるのだな」

『カルラっていっつも難しい本読んでるよね!私は今ね恋愛ものの小説を見てるの!いいわねー恋って私もいつか誰かとそうなってみたいわ…シンは何読んでるの?』

シンの方に体を動かして話しかけようとしたら、シンは牢の壁にもたれかかってどうやらおやすみ中みたいだった。眠ってる人を起こすほどの重要な話題じゃないから今はそっとしておこう。

『おやすみ、シン』

「恋愛小説か、恋だの愛だの女は本当にその手の話題が好きだな。母上がご健在の時も好きな人の話をよく聞かれていた」

『カルラ好きな人居たの!?』

カルラとは従妹同士で昔からよく一緒に過ごしていたが、カルラに好きな人が居たなんて初めて聞いた。
カルラもこの小説の主人公の様に誰かを愛しく想い、その人がいるだけで幸せになるようなそんな甘くて幸せな時間があったというのか…私は貴方をそういう想いで見ていたのに貴方の心は別の所にあったのね
私が恋愛小説をよく読むのは、そのヒロインと主人公を私とカルラで重ね合わせて妄想していたからだ。想いを伝えたことはないけれど“いつか”そうなれたらいいな…と。
なんだか今の言葉で私の妄想がすべて打ち砕かれた気分だ。

「ああ。随分昔から居る。母上もすごく気に入って居られたな。いつも万魔殿に来るのを楽しみにされていた」

『そっか…残念だったね』

「何がだ?」

『だって今残ってる女の始祖は私だけ。その子はもう亡くなってしまったのでしょ?』

亡くなってもなおカルラの心に居続けるなんて羨ましい。私が死ぬときはこの人は悲しんでくれるだろうか…私も貴方の心に居ることができるだろうか…

「その女は生きているぞ」

『じゃあ別種族なの?いいわねー種族を超えた愛。よく小説で出てくるわ。ロマンチックよね!』

「いや、別種族でもない」

『…じゃあ誰?』

これは…これはもしかして少しは期待を持ってもいいのではないだろうか…もしかしてカルラが好きなのは…

「誰だろうな?」

『ん”っ!!カルラ意地悪だよ!!』

「そうか?では意地悪な私は最後まで黙っておくとしよう」

『それはもっとダメ!ねー教えてカルラの好きな人』

「そうだな、では次の月食が来た時に教えてやろう」

地下牢の秘密

次の月食の時ヴァンパイアの気配が城から消え、私達は見事脱出することができた。カルラ達随分前からこの機会伺っていたらしい。流石は始祖王の息子だ、私なんかのほほんとしてカルラの好きな人で頭がいっぱいだったというのに。

『カルラ、約束よ!好きな人を教えてちょうだい』

「そうだな、元々ここを出てから言うつもりだったから丁度いい…私の好きな人というのは名前の事だ。いや、好きな人というより愛しい人だな。愛している、私の妻となってほしい」

『はい!喜んで!!』



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