Short


「アンタ、兄さん知らない?」

『んー今日一度も会ってないからどこ居るか知らなーい』

「はぁ!?本気で言ってんのそれ!?」

シン君が驚くのは無理もない。私がカルラと付き合ってこんなに長い間離れているのは今日が初めてだ。
世のカップルは「一日会わないくらい普通じゃない?」と思うかもしれないが、私たちは普段異常なくらい行動を共にしている。それがどれ程かというと、一日の中でトイレ以外の時間は全部共有していると言っても過言ではないくらいだ。休んでいる時は勿論、ご飯もお風呂も寝る時も全ての時間を共有している。付き合ってからずっとそんな風に一緒に居た私にとって1日も相手に会わないのは結構キツイ…私が。

「喧嘩でもしたの?どーせアンタがヘマして兄さんの逆鱗に触れたんだろうけど」

『いや、喧嘩も何もしてないよ。ただ“今日は一日別行動しましょう”って置手紙だけおいてさっきまで外に出かけに行ってたの』

そう、今回別行動をとろうと提案したのは実は私。じゃあなんでお前が寂しがってんだよっていう話であるが。事の発端は数日前に遡る。
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『うざい女の行動…?』

それはテレビでやっていた特集。大して気にも留めず見ていたBGM代わりのテレビ。私には関係ないことだと決めつけて放送される言葉も最初の方は右から左へ抜けていっていた。
“もしこれから話す4つの項目のどれか一つでも当たってたら要注意よ!

@なんでもかんでも理由を聞きまくる
あまり干渉しすぎるのは良くないわ。相手も貴方に疲れちゃうかも

A彼氏の後ろをずっとついていく
少しなら可愛いけどやりすぎはだめ!逆効果になってるわ

B我儘ばっかり言う
内容によるけど、あんまり度が過ぎると彼もイライラしちゃうわよ

Cネガティブな事が多い
構ってほしいのはわかるけど、面倒だなっていうのが彼の本音かもね

貴方は大丈夫だった?もし心当たりがあるならすぐに態度を改めないと大事な彼が離れていってしまうわよ!それでは次のコーナーの…”

『(嘘でしょ…全部あてはまってる…)』


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あの時隣で見ていたカルラは何事もなさそうにしていたけど、聞いていたなら全部私が当てはまっているとわかったはずだ。それでも何も言ってこないのは私に“察しろ”という事なのだろうか。
私はうざい女の行動をパーフェクトにこなしている。絶対に考えすぎではない。
私はカルラが出かけると「どこ行くの?誰と一緒なの?何しに行くの?私は一緒について行ってもいい?」としつこく聞きまくりいつも一緒に居る。我儘に関しても、お姫様抱っこしてとか料理作ってとか、体洗ってとか…まるで女王のようにいつも言い放題言ってる。いつもカルラは文句ひとつ言わずに付き合ってくれているからてっきり大丈夫なんだと決めつけていた。でもよく考えて、もし私が男ならこんな女絶対嫌になる。それにこれだけ嫌われるようなことをしているくせに、嫌われたらどうしようとか、しょっちゅう私なんかがカルラの彼女でいていいのだろうかとか言うし、うまくいかないと“どうせ”を文頭に置いて話してる。
こんな女が彼女で疲れないわけがない!
もう付き合って数年もたつというのにようやくその事実に気が付いた私。今からでも遅くはない、少しでもカルラの羽を伸ばす時間を作らなければ私は捨てられてしまう。思い立ったら即行動。普段はこんな行動力はないのに、カルラの事となると別らしい。さっそく今日をカルラの休日にすべく、私は朝から別行動をとっていたというわけだ。
少なくとも今日一日はカルラから離れていないといけないのに、もう寂しくて心が折れそうだ。
嫌われるのは嫌だけど、こんな日がこれからも週1とかのペースであったら私寂しくて死んでしまう。

『(会いたいな…)』

「今までどこに居た!」

「(うわー兄さんめっちゃ怒ってるよ…)じゃ、じゃあな」

『ただいま…そんなに怒ってどうしたの?』

会いたいなと思った瞬間現れたことに、やっぱり心が通じ合ってるのかも!と喜んだのは束の間現れたのはこれ以上ないくらい怒っているカルラだった。シン君は流石兄弟というべきかカルラを一目見た瞬間にヤバいと察知して一人だけ逃げた。卑怯者。
こんなに怒っている姿を見るなんていつ振りだろうか。掴まれた手は手首は脱臼するんじゃないかというくらい強く握られている。

『痛い!カルラ痛いよ』

「痛くしているのだから当然だ。それより貴様今までどこに行っていた。」

『街に行って一人でお買い物してただけだよ、ねー痛いよ』

掴まれた手は力を弱める様子がなく、痛すぎて涙が出てくる。普段ならここで「すまない、大丈夫か?」と労わりつつ謝ってくれるというのに今日は、全くそういう事をする気配がない。本気だ。本気でカルラが怒っている。

「本当にそれだけか?別の男の所へ行っていたのではないのか」

『行ってないよっ本当に一人だったんだって』

「なら何故私を置いていった。いつもなら私を起こして朝食の準備から着替えから何から何までさせるだろう。私にやましいことがあるからさせれなかったんじゃないのか」

『そんなわけないじゃん!』

「脱げ」

『脱げ?服?』

「ああ。コートは勿論下着まですべてだ。」

『私裸になっちゃうよ!?』

「そうだ。裸にさせる。もし何もないというのなら私にその身の潔白を証明して見せろ」

おかしい。今日のカルラは確実に可笑しい。一体何が彼をそこまで動かしているというのだ。目を見ても明らかに冗談のそれではなく、本気だ。ますます意味が分からないがこの真冬に廊下で服を脱ぐなんて寒くて嫌なので勿論脱がない。

『カルラ!!本当に何にもないって!寒いし私そんなことできないよ』

「…そうか。やはり私には見せれぬ理由があるのだな。手荒な真似はしたくなかったが致し方あるまい。」

カルラの言う“手荒な真似”など絶対にいいことじゃないに決まっている。
本当はあまり離れた理由は言いたくなかった。私が離れた理由を言ってもし目の前でカルラに“今更気が付いたのか?本当に貴様は面倒な女だ”なんて言われた日には立ち直れないから、その反応は見たくないから理由を言いたくなかったのだ。
でも、このままでは“手荒な真似”をされてしまいそうなので観念して、理由を言おう。

『違うの!この前テレビでうざい女なんちゃらって言ってた番組覚えてる?』

「ああ。覚えている」

『私、あれ全部あてはまってたの。いっつもしつこいくらいカルラについていくでしょ?一人の時間がないほどに。それに我儘も酷いし、すごくネガティブで…』

本当の事でもここまで自分の嫌な所を言いまくると中々辛い。言ってるだけで落ち込んできた。どんどん顔を曇らせる顔の私とは対照的にどんどん怒った顔が優しくなっいくカルラ。掴んでいたてはするっと離されて、今度は優しく、まるで壊れ物を抱くかのように優しく抱きしめてくれた。

「すまない…名前の事になると私すぐに冷静さを欠いてしまう。名前の事は勿論使用しているが、貴様は自分が思ってる以上に魅力的だ。だから私が居ない間に他の男に言い寄られていないか心配になる。もし私の元を離れていったらと思うと気が気じゃない…一生私の部屋に閉じ込めて私以外見れなくしてしまおうと思うほどにな」

『(私もう少しで檻ガールになるところだった…)』

「私はあの番組を見た時驚いたのだ。確かにあの番組で言っていたすべての事が貴様には当てはまる」

『…』

「だが、その目障りな女の行動をすべてしているというのにそれでもこんなに可愛いと思わせる名前は流石だと思ったのだ。
いつもどこに行くにもついてくる貴様を私は実に可愛らしく思う、予定を聞かれても別に腹は立たない。それどころか嬉しいと感じる。貴様は我儘というがあんなものまだ我儘のうちにはいらん、当然の事だ。むしろもっと我儘を言ってくれ。私は貴様の要望をすべてかなえたいと思っている。名前は確かに謙虚すぎてネガティブな所もあるが、だからこそ相手を尊重して行動ができる。私は美点だと思うぞ。それに落ち込んでいる名前が頼ってくる姿、すがるような目見つめてくる瞳ががたまなく愛らしくて貴様が辛い思いをしているとわかっているのに私は可愛いと思ってしまうのだ。」

いつになく饒舌なカルラに驚くが、それは全て私への愛の言葉だった。聞いていると少し恥ずかしくなるけれど、どれもとても嬉しい言葉で、彼はちゃんと私を愛しているんだと実感がわいた。勿論今でも感じてはいたけれど、きっと想いの強さは私の方が上だろうなと思っていた。
しかしそれは私の思い違い。実際はカルラも私と同じくらいの愛をそそいでくれていたんだね。

『ごめんね、離れてて寂しかったよ。私に疲れて自由時間をなくしてるなら悪いなと思って離れてたんだけど、余計だったね』

「名前の相手を思い気遣う心は良いところだと思うが、私相手にそれは不要だ。安心しろもし本当に嫌であれば必ず言う。そんな時は来ないと思うがな」

『カルラ愛してるよ。』

「私も愛しているぞ、名前」

離れてみました

(片時も私の隣の離れることは許さない)



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